私(西村幸太郎)の一連のブログ記事です。私がどういう人間なのか、どういう活動をしているのか、どんなことを考えているのか、どんな知識やスキルを持っているのか、信頼に足る弁護士か、などなど、たくさんの疑問をお持ちの方もおられると思います。そのような方々は、是非こちらの記事を御覧ください。
成年後見人と身体侵襲行為
本日,「成年後見のイ・ロ・ハ」という演題で,研修を行いました。 内容は,ごくごく基本的なものをベースにお話ししたのですが,質問のレベルが高く,驚かされました。
身体侵襲行為(医療同意)についての質問があったので,書いてみたいと思います。
本人に,手術など身体侵襲行為の必要が生じた場合,成年後見人は,医療機関側が求めてくる医療同意をできるか(どう対処すればよいか)という問題です。
法的な結論は簡明で,成年後見人には,そのような同意権はありません。 成年後見人は,入院するにあたって必要な病院との契約など(医療契約)の代理権を有することはあるでしょうが,身体侵襲行為についての同意権はありません。 しかし,医療機関側は,リスクヘッジのため,同意を求めることがあります。医療機関側も,軽々に,ご本人のお体に侵襲することはできませんから,事情は十分に理解できます。そのため,(ほかに身寄りがあればその人に求めればよいですが,身寄りがなく,成年後見人意外に同意を求めることができない場合,)成年後見人に対して,同意を求めるというわけです。
では,成年後見人は,同意書にサインをしていいのか? 対応は,ケースと成年後見人のスタンスにもよると思います。しかし,前提として,法律上,成年後見人に,そのような「権限」はありません。 なので,法的には,そのような同意をしても,無意味ということになるでしょう。その旨,医療機関側に丁寧に説明した上で,手術をしてもらうことになると思います。どうしてもと言われた場合,同意しても法的に意味はなく,気休めにしかならない(責任はとれないしとる必要もない)けれども,それでもいいならサインしますよ,という形で,サインをする成年後見人もいるようです。 医師には,治療の義務がありますから,患者を放置するわけにはいきません。医師の心配を取り除いてあげて,スムーズに手術を行うためには,あり得る対応だと思います。
ところで,この問題の一環として,しばしば問題になるのは,予防接種の問題です。予防接種も,身体的侵襲を伴う医療行為ですから,やはり成年後見人には,同意権はないと考えられます。しかし,予防接種法に,以下のような規定があるので,同意権があるという解釈をする方もいるようです。
【予防接種法】 (予防接種の勧奨) 第八条 市町村長又は都道府県知事は、第五条第一項の規定による予防接種であってA類疾病に係るもの又は第六条第一項若しくは第三項の規定による予防接種の対象者に対し、定期の予防接種であってA類疾病に係るもの又は臨時の予防接種を受けることを勧奨するものとする。 2 市町村長又は都道府県知事は、前項の対象者が十六歳未満の者又は成年被後見人であるときは、その保護者に対し、その者に定期の予防接種であってA類疾病に係るもの又は臨時の予防接種を受けさせることを勧奨するものとする。
私は,単に「勧奨する」という規定から,同意権を導くことはできないと考えます。しかし,成年後見人は,本人に対し,少なくとも,予防接種を受けるよう働きかける必要があるのではないかとも考えています。
これらの問題は,法的な観点だけから考えられる問題ではありません。場合によっては生命にもかかわりかねない重大な問題ですから,今後一層,議論が深まっていくことを期待したいと思います。