私(西村幸太郎)の一連のブログ記事です。私がどういう人間なのか、どういう活動をしているのか、どんなことを考えているのか、どんな知識やスキルを持っているのか、信頼に足る弁護士か、などなど、たくさんの疑問をお持ちの方もおられると思います。そのような方々は、是非こちらの記事を御覧ください。
不貞相手に対し,夫婦が離婚に至った責任を問うことができるか
昨日,19日,注目を集める最高裁の判例が出ました。報道など見ると,誤解されやすいようなタイトルで紹介している記事もありますのでご注意いただきたい内容です。
判例の要旨:
「夫婦の一方は,他方と不貞行為に及んだ第三者に対し,特段の事情がない限り,離婚に伴う慰謝料を請求することはできない」
これだけ見ると,「えっ,不貞しても責任問われないの??」と誤解されそうですが,この判例も,不貞相手に対し,「不貞行為に対する」責任追及をすることは,否定していません。
今回,判断の対象になったのは,不貞相手に,夫婦が「離婚に至ったこと」の責任を問えるかということです。これについては,原則としてできないということです。
離婚の原因はさまざま,それは夫婦間の問題という考え方が基礎とされているようです。
法律用語ではないですが,不貞行為などの個別の行為に対する責任追及の場面では,離婚「原因」慰謝料,離婚そのものの責任追及の場合は,離婚「自体」慰謝料などと呼ばれています。この整理で判例を理解するとわかりやすそうです。今回は,不貞相手の責任について,離婚「原因」慰謝料を追及することができるのは前提とされていると思われるが,離婚「自体」慰謝料については,原則として認められないとした,と整理ができます。
夫婦間の問題だから,離婚に伴う慰謝料については,(元)配偶者に対する責任追及によって解決するということになるのでしょうね。
実務上の影響は,これから検討され,事例の蓄積を待つとされるものと思われますが,予想されるのは,特に以下の2つの事項についてです。
まずは,損害額の考え方。これまでは,不貞相手へ責任追及する際に,夫婦が離婚にまで至っていれば,より精神的苦痛が大きいとして,比較的高額の慰謝料が認められる傾向にあったといってよいと思います。ところが,今回の判例を前提にすると,夫婦が離婚に至っているかどうかは,慰謝料算定の基礎としては考慮しないということにもなりかねません。慰謝料請求を専門に取り扱っているような弁護士にとっては,かなり痛手の判例なのではないかと思います。
次に,消滅時効との関係。理論上,離婚原因慰謝料については,その原因行為(不貞行為等)があったとき以後が,時効の起算点になりやすいかと思います。ところが,離婚自体慰謝料は,離婚そのものの慰謝料ですので,起算点は,離婚の日以後ということになりやすそうです。通常,不貞行為があって,その後,タイムラグがあって,離婚に至るという経過をたどるでしょうから,時効の関係では,離婚自体慰謝料で考えた方が,時効にかかりにくいということになりそうです。ところが,不貞相手に対しては,離婚自体慰謝料が請求できないとなると,離婚原因慰謝料の消滅時効(3年)については,より気を付けておかなければならないとなりそうです。
個人的に興味があるのが,離婚に至っている夫婦において,不貞相手と元配偶者の両方に対し,請求を掛ける場合,不貞相手には離婚原因慰謝料を,元配偶者には離婚原因慰謝料を含む離婚自体慰謝料を請求し得るように思えますが,どれくらい金額が変わってくるか,どの範囲で両者が連帯して責任を負うかですね。
実務上のさらなる事例の蓄積に注目していきたいです。