私(西村幸太郎)の一連のブログ記事です。私がどういう人間なのか、どういう活動をしているのか、どんなことを考えているのか、どんな知識やスキルを持っているのか、信頼に足る弁護士か、などなど、たくさんの疑問をお持ちの方もおられると思います。そのような方々は、是非こちらの記事を御覧ください。
いままでの投稿: 2018年8月
注目を集めるハラスメント事案の実務対応の在り方について
平成30年8月28日13時~15時,「注目を集めるハラスメント事案の実務対応の在り方について」と題しまして,福岡県の公平委員さん向けに,講演を行いました。
みなさん,熱心に聴講いただけました。セクハラやパワハラは,古くて新しい問題で,少なくとも1980年代から議論はあるものの,今なお,ニュースを賑わわせています。最近は,ハラスメント保険が注目を集めているなどといった記事も目にするようになっていますね。
講演のなかみとしては,セクハラとパワハラを中心に,許されるものと許されないものの境界を探る形で,検討をしてみました。パワハラは特に難しいですよね。
ところで,近時のニュース,スポーツ界では,まわりはパワハラではないかと思っているが,被害者とされる本人がパワハラだと思っていないと言っている,というような問題状況がみられます。あれは難しい問題だと思います。教科書やものの本を見ても,あまり議論されていないように思うのですが,これから議論が深まっていくのではないかと思います。
今回の講演前に勉強したこと,講演したこと,みなさまの反応を確認できたことなど,さまざま勉強になりました。多数の方に豊前市にお越しいただき,それゆえ緊張もしましたが,みなさまに何かしら持ち帰っていただければなと思います。
あさかぜ研修
平成30年8月25日,幣所にて,あさかぜ研修を実施しました。
あさかぜ研修とは,私の勤務していた前事務所,あさかぜ基金法律事務所の社員弁護士向けの研修です。同事務所は,私と同じく,弁護士過疎偏在地域,平たく言えば弁護士が少ない地域にもリーガルサービスを行き届かせたいという志をもった弁護士が勤務し,事件処理,事務所経営,研修などなどを通して,日々研鑽を積んでいます。その一環として,事務所OBである私が,現地での経験を踏まえてお話をするというわけです。
最近は,大中規模の人数を対象に,一方向の講演形式でお話しすることが多かったため,少人数での研修は,私としても新鮮でした。ディスカッション形式で研修を進めましたが,同じ志をもつ弁護士同士,するどい意見もあり,こちらも大変勉強になりました。
現地開催ということで,事務所案内,現物を見ながらの説明もできました。百聞は一見に如かずと言いますから,幣所の取り組みが,少しでも役立てば幸いです。
具体的には,その土地のことをよく知ること,日々の生活の中に経営や勉強のネタが広がっていること,目の前のお客様にプロとしての知識と知恵を提供するようつとめること,さらに付加価値のある最上のサービスの提供を目指すこと,紛争の解決が目的であるから柔軟な発想で受任し事件処理をすること,迅速解決は大きな価値であること,事務所運営に必要な各種取引は広がりのある活動をするための最上の機会であること,コストと考えるか投資と考えるかは自分次第であること,まずは自分が幸せでなければ人に幸せを提供することはできないこと,ワーク・ライフ・シナジーを目指すこと…などなど,思いつく限りでさまざまお話しできたのではないかと思います(最後のワーク・ライフ・シナジーは,久保利弁護士の言葉をお借りしました)。
なお,参考までに,私の個人的なモットーは, “その土地のことを知り,好きになり,密着した活動を行う” “お客様の視点で,お客様の喜ぶことを,しかしプロとしての意見と判断はきちんと示す” “転んでもただでは起きない,トライ&エラー” の精神です。
幣所は,後進の育成,事務所運営に関する研修も積極的に取り組みます。ご興味がある方は,ぜひお声掛けください。
I am Sam/アイ・アム・サム
I am Sam/ アイ・アム・サム。知的障害者である父親が,娘の養育権を得るために奮闘する物語です。養育権争いと言っても,夫婦間の争いではありません。母親は,映画の冒頭で,子を産んですぐに失踪します。父親は,娘を大切に,大切に育てます。そんな彼を温かく見守る周囲。しかし,7歳ほどの知能しかもたない彼のことを,7歳に至る娘は,「周囲と違う」と感じるように。そのことを話すと,悲しそうな父親。娘は,父親への罪悪感からか,積極的に学習するのに抵抗を感じるようになります。それを見た周囲が,ある事件を契機として,父と娘を引き離そうとするのです。父親は,弁護士とともに,娘の養育権を主張して,奮闘するのです。
この映画は,カメラワークが独特です。手持ちのカメラでしょう。不安定な視点という表現なのでしょうか。若干酔ってしまうのがたまにキズですが,表現方法としてはありかなと思います。
主人公サムが勤めるのは,スターバックス。スターバックスは,積極的に障害者雇用をしており,そのような制度もあるようなのですが,「特別なことはしてない」ということで,あまりアピールしていないのだとか。映画では,そんなスタバで,従業員やお客様から見守られるサムの図がほほえましいです。
随所にビートルズの音楽,小ネタが。私は,全部が全部わかるわけではないですが,探してみると面白いかもしれませんね。
障害者・親権争い・親子の絆といった,重いテーマに挑む映画ですが,親子の絆って素晴らしいということを,改めて感じさせられます。健常者でも,子育てや,親子の関係は,難しいものがありますよね。では,障害者は?映画を見ながら,親子関係について,改めて考えてみませんか。
身体拘束ゼロを目指すために
平成30年8月17日,@ウェルとばたにて,2018年度夏の権利擁護研修が開催されました。この研修は,概略,北九州弁護士会もかかわり(なかでも高齢者障害者委員会が中心になって行う),福祉関係者とともに,丸1日かけて,虐待に関する研修を行うというものです。私も,毎年,参加させていただいております。多数の参加者がおり,午後のバズセッションでは,用意された事例に関し,活発な議論,意見の交換がなされていました。
午前中は,講演形式の研修でした。弁護士サイドでは,「身体拘束ゼロを目指すために」と題して,虐待の5類型のなかでも身体的虐待,そのなかでも身体拘束の問題を取り扱う講演を行いました(私は聴講していただけです。発表者の先生方は,お疲れさまでした。)。備忘も含め,内容を簡単に描いておきたいと思います。
安全確保のため,高齢者の身体拘束が必要な場合もあるのではないかという議論があります。しかし,安全を確保するには,むしろ,①転倒・転落を引き起こす原因の分析や,②事故を防止する環境づくりが大事。せん妄状態だから転倒などの事態が生じるのか?トイレに行きたい?何か物を取りたい?同一体位による身体的苦痛がある?不安や寂しさなどがある?対象者がどんな人で,どうしてそのような行動をしているかを考えれば,安全確保のための工夫ができるかもしれません。さらに,環境的な問題も大事です。ベッドの高さ,椅子の位置,床が滑らないか,物が届くところにあるかなどの物理的な環境や,対象者が用事を頼みやすいか,コミュニケーションがとりやすいかなどの人的な環境,チューブ類が目につく位置にあるか,薬剤による影響はないかなどの治療環境などに注意すると,安全確保の工夫のきっかけができるかもしれません。
人手不足は身体拘束の理由にはなりません。身体拘束をしなかったことのみで安全確保の措置を講じなかったと評価されるようなことはありませんし,逆に,身体拘束をしたことについての違法性が問われることは,十分に考えられます。身体拘束が許されるのは,「緊急やむを得ない場合」,すなわち,①切迫性,②非代替性,③一時性の要件が充たされたときのみ。最判H22.1.26は,当時80歳の女性が,入院中病院のベッドに不当に拘束され苦痛を受けたとして,病院に対し,損害賠償請求をした事案ですが,高裁と最高裁で身体拘束が許されるか否かの判断が別れました。現場の方がこれを判断するのは容易ではなく,基本的に身体拘束は許されないという態度でのぞむべきでしょう。
もし,万が一,身体拘束が避けられない場合は,手続面も注が必要です。個人で判断するのではなく,施設全体で判断すること。委員会等の設置がのぞましい。利用者や家族に十分に説明し,理解を求めること。利用者の状態を常時見守り,必要がなくなればすぐに身体拘束を解除すること。その態様及び時間,利用者の心身の状況,「緊急やむを得ない場合」と判断した理由等を記録すること。このような手続を踏んでいく必要があるでしょう。
身体拘束はあくまで例外的なもので,現場の人がどのような悩みを抱え,どのような場合に身体拘束が避けられず,それがやむを得ず行われるのか,身体拘束についてどのような態度でのぞむべきか,大変勉強になりました。
講演では,ユマニチュードやパーソン・センタード・ケアなど諸外国の取り組みについても報告がありました。私も,これから引き続き,勉強していきたいと思った内容でした。
私も,福祉にかかわる法曹として,今回の研修も参考にしながら,日々邁進していきたいと思います。
ブラック・トライアングル/虚像のトライアングル
損害保険会社,自賠責システムを担う国,裁判所。このトライアングルが,交通事故被害者にとってどう映るか。被害者側(請求側)弁護士の立場から,厳しく批判的な意見をしたためているのが,「ブラック・トライアングル」「虚像のトライアングル」です。
執筆しているのは,交通事故を専門的に扱っている弁護士法人サリュの代表弁護士です。谷清司弁護士は,もともと保険会社側の弁護士として活動し,その内情を熟知しており,その経験を生かして,今度は被害者側の弁護士として活動を続けているとのことです。弁護士過疎地で多様な事件処理をしていたというエピソードも,地方の弁護士としては,興味深く拝見しました。
治療費や休業損害の打ち切りの問題。意図を感じざるを得ない医師への照会や被害者への執拗な電話攻勢。示談代行の名のもとに保険会社主導で交渉が進んでしまう実態。後遺障害認定:12級ー14級ー非該当の境界の問題。障害者差別的な後遺障害の運用(既存障害の問題点)。保険会社顧問医による意見書がかかえる問題。素因減額にかかる問題。画一・硬直化した自賠責・任意保険会社の判断に従ってしまう裁判所。比較法的にみた交通賠償法務の後進国である日本…
実に多くの問題点に切り込んでおり,読みごたえがあります。特に,「虚像のトライアングル」に詳論されている,比較法的にみた日本の賠償法の分析は,大変勉強になりました。フランスの賠償法は進んでいるな,としみじみ感じたところです。フランスには交通事故賠償のための特別法が整備されており(日本は一般法である民法で処理し,せいぜい自賠法がある程度),そこでは保険会社に対し,被害者の権利に関する情報提供を義務付け,賠償案の提案期間は原則として事故から8か月以内にしなければならないとし,その間に症状固定に至らない場合もその時点で賠償前渡し金が支払われ,症状固定後5か月以内に最終の賠償提案をしなくてはならない,とされています。これらのルールを守らなかったり,明らかに不十分な賠償案であるのであれば,制裁が課されるなどするそうです。日本とはかなり異なるシステムになっています。
私も,被害者側(請求側)の担当をすることがよくありますが,制度自体のかかえる問題点,基準の問題点なども考えながら,目の前のご依頼者様のため,個別具体的に,被害救済に尽力していきたいと思いました。
スタンドアップ
セクシャルハラスメント-日本では,福岡セクシャルハラスメント事件において,晴野まゆみさんが,全国初のセクハラ訴訟を提起し,勝訴したことによって,広まったと言われています。平成元年1月には,流行語大賞にもなりました。
この事件において,弁護士は,外国ではすでにセクシュアルハラスメントという概念が広まっていたことを知ったといいます。では,そこでいう外国のリーディング・ケースとは?…映画「スタンドアップ」は,1984年にアメリカで初めてセクシュアルハラスメント(性的迫害)の集団訴訟を起こし,1998年に和解を勝ち取った女性の実話に基づいた衝撃作です。
【ネタバレ注意】 主人公は,レイプにより望まぬ出産を強いられた過去をもつ女性。息子にはそのことを話しておらず,衝突しながらも,大切に育てている。
生活の糧を得るため,鉱山で働くことになるが,そこでの労働環境は,ひどいものであった。入社前には妊娠していないかの検査をされ(妊娠している女性は働けないという意識のあらわれ?),入社初日に「医者に聞いたぞ。なかなかイイ体してるんだってな」とまで言われる。男性ばかりの職場で,女性職員は差別的な取り扱いを受け,汚物をまかれ,いつレイプされるか怯えながら過ごす…。相談しても聞き入れられず,「辞めるのを認めよう」と言われ,だれも助けてくれない,そんな毎日に耐えかねた主人公は,訴訟提起する決意をします。
彼女の望みは,きちんと仕事に就き,2人の子を育てていくことだけなのに。
訴訟では,主人公を悪者のように問い詰められ,必死に隠し通してきた過去を暴露される。同じく被害を受けているはずの同僚女性は,仕事を失い又は標的にされることをおそれ,嘘の供述をする。しかし,主人公の必死の訴えが奏功し,最後には,みなが立ち上がり(stand up),勝訴的和解を手にする,という物語です。
実話をベースにしているということですが,こんなことがわずか40年ほど前に起こっていたというのは,衝撃です。「言葉の暴力」などといったレベルではなく,明らかな迫害のように思えますが,女性の権利として声高に主張できるようになるまでの歴史の一端を見たような気がしました。
法廷でなされる主張も,セクハラの構造的な問題をよくあらわしているもののように感じます。たとえば,「本当に嫌ならば拒否しているはずだ」など,いまでもよくなされる主張ですが,本作でも声高に主張されていました(この点,最判H27/2/26にて,「被害者が明白な拒否の姿勢を示さなかったことを(加害者)に有利に斟酌することはできない。」とされています。)。
テーマは重く,楽しんで観れるというタイプのものではないですが,非常に考えさせられるものがあり,ドラマとしても見ごたえのあるものだったと思います。おすすめです。
許すな!パワー・ハラスメント
セクシュアル・ハラスメントは,英語圏で使われるれっきとした英熟語であり,アメリカ判例法も形成されてきたものです。一方,パワー・ハラスメントは,日本人によって英単語を組み合わせてつくられた造語です(弁護士になって初めて知りました。)。
バブルのころ。企業は目覚ましい発展を遂げ,労働者もその波に乗っていたといえます。ところが,バブルが崩壊し,リストラの波がおそいます。上司からのプレッシャーもきつくなってきます。メンタルヘルスのバランスを崩す社員が増え,社会問題化されました。そんななか,2003年,岡田康子著「許すな!パワー・ハラスメント」が出版されます。同氏は,「パワハラほっとライン」という電話相談を主宰する㈱クオレ・シー・キューブの代表取締役です。同氏が,パワハラの名付け親と言われており,本の出版から,徐々に言葉が浸透していき,いまではその言葉を知らない者はいないといってもよいでしょう。
その後,2012年,それまでの議論の蓄積を踏まえ,厚労省が,パワハラを再定義します。
2003年の本ですから,その後の議論は踏まえられていませんが,さすが原点ともいうべき,示唆に富む事例が多数掲載されています。電話相談の事例の蓄積をもとに記載されているため,説得力があります。「なぜ,この上司はパワハラをするのか」という背景事情,「もし,あなたがパワハラ被害に遭ったら」という対処法に至るまで,具体的に書いてあり,一読の価値ありです。
興味がある方は,ぜひ一読してみてください。
平成30年8月28日,ハラスメントに関する講演会のご依頼をいただいています。この機に,私自身が改めて学びなおし,身のある講演会にしていきたいです。
コンカッション
コンカッション。(脳)震盪などを意味する言葉です。同名のタイトルの映画(ウィル・スミス主演)では,ナショナル・フットボール・リーグの選手たちと慢性外傷性脳症との関連を発見した医師の実話に基づくドラマが展開されています。
オマル医師は,新進気鋭の医師・検視官。あるとき,アメフトを引退した花形選手の解剖に携わり,そこで,画像に映らない脳の病気を発見する。「慢性外傷性脳症」と名付けられることになるその病気を,アメフト界では全面否定。両者の壮絶な闘いが展開されます。
キツツキは,木に頭を打ち付けるようにしますが,生まれつき頭に緩衝装置が組み込まれているそうです。では,人間は?フットボールで,何度も頭を打ち付けますが,人間には元来緩衝装置がないというのです。そのため,脳にダメージが蓄積されていくというのです。死後の脳の病理学的検査でしか診断することができず,生存中,画像検査だけではわからないというおそろしさがあります。
映画の内容としては,実話をもとにしたというだけあって,必ずしもサクセスストーリー,ハッピーエンドというわけではなく,悲劇も織り交ざりながら,全体として重厚な物語に仕上がっていると感じました。
交通事故を扱う弁護士としては,「画像に映らない疾患がある」ということを改めて考えさせられます。自賠責(損保料率機構)において,後遺障害等級認定をするにあたっては,医師の診断と画像所見,神経学的所見が重視されますが,それだけでは拾いきれない疾患というのも,あるはずです。そのような症例にあたった場合,きちんと症状を把握し,場合によっては基準を乗り越え,適切な後遺症を獲得していく努力が必要だなあなどと,考えさせられたものでした。
そういう難しい話はおいておいても,大変勉強になる,退屈もしない,興味深い物語ですので,ぜひ1度鑑賞されてみてください。