私(西村幸太郎)の一連のブログ記事です。私がどういう人間なのか、どういう活動をしているのか、どんなことを考えているのか、どんな知識やスキルを持っているのか、信頼に足る弁護士か、などなど、たくさんの疑問をお持ちの方もおられると思います。そのような方々は、是非こちらの記事を御覧ください。
いままでの投稿: 2019年8月
葬儀費用の取扱いについて
相続のご相談の際,必ずと言ってよいほど出てくるのが,「葬儀費用を●●が出した,出してない」という問題です。少しコメントしてみます。
まず,法理論的には,厳密に言うと,葬儀費用の問題は,相続・遺産分割とは別の問題ということに注意してください。相続というのは,被相続人の死亡により発生するものですが,葬儀費用は,被相続人死亡後に発生するもので,相続債務ではありません。さらに,葬儀会社との関係では,契約をした人が債務を負担します。問題は,「最終的な」費用負担者は誰かということです。
喪主が負担すべきという説,相続人が法定相続分で負担すべきという説など,複数の説が対立しており,確定した最高裁判例はありません。 近時は喪主負担説が強くなっていると言われますが,経験上,遺産分割調停では,法定相続分で負担するという処理もよく見られます。遺産分割で,葬儀費用を法定相続分で負担すると不公平だと感じられるような分け方をした際に,端的にいうと長男が優遇して遺産をもらっているような場合に,香典ももらってるんだから,葬儀費用ぐらい負担してよということで,争いになることが多いから,喪主(多くは長男などでしょう。)負担とされることが多いのかもしれませんね。
以前,私のところに,セカンドオピニオンを求めて相談に来られた方から,「前の弁護士から,葬儀費用は喪主が負担すると決まってると言われた。」と述べていた方がいましたが,決まっているわけではないですし,個別事案に応じて妥当な解決を図っているというのが実情ではないでしょうか。
香典は,被相続人の死後に,遺族へ贈与されたものと理解しますが,通常,香典から香典返しを差し引いた金額を,葬儀費用に充当するということになるでしょう。
(葬儀費用-香典+香典返し)÷相続分=各人の負担額
という形で,解決を図っても良いのではないでしょうか(特に調停)。
負担するのはよいが,金額が高すぎるというときもあります。妥当な金額として合意できる範囲で相続人で負担して,それを超える部分は,葬儀を契約した人(喪主)が負担するという解決も,一考ですね。
なお,ここでいう葬儀費用とは,遺体搬送費・葬儀会社への支払・葬儀場への賃料・お布施・火葬費用などです。これらに付随する通夜・告別式の接待用飲食代,初七日の費用,四十九日の費用は微妙で,葬儀費用に含めるかどうか争いがあります。
葬儀後の弔問客の接待費用,一周忌,三周忌,墓地の取得費,仏壇購入費などは,祭祀承継者としての義務なので,葬儀費用ではありません。
領収書のないものはどうしましょうか。あるに越したことはないですが,こと葬儀に関して言うと,性質上,慣習上,そもそも領収書の発行がないということも結構あります。裁判例も,そのような実情を踏まえ,葬儀の実施そのものを疑うなど特段の事情がない限り,領収書などの資料がなかったとしても,葬儀を実施する以上,社会通念に照らし相当な額が経費として生じたことが推認されるとしたものがあります(大阪高判H27.7.9)。
遺体・遺骨は,葬儀とはまた別に考え,祭祀財産に準じて扱い,祭祀承継者が引き継ぐことになるでしょう。
祭祀承継者をどのように決めるか。被相続人の指定があればその指定に従います。指定がなければ監修に従うとされてますが,実際は慣習に従って定められた審判例はほとんどないようです。最終的には審判で祭祀承継者を決めますが,その際は,①被相続人との親密性と,②被相続人の生前の意思を判断基準にします。
紛争の予防についてですが,祭祀承継者は,遺言で指定ができますので,遺言を作成することを検討してみましょう。
葬儀費用については,保険や共済で,死後の葬儀費用に相当する金員を喪主にすぐに一括で支払うという内容の商品があるようで,実際に,依頼者のなかには,複数名,これを利用して備えている方がおられました。
葬儀費用の対策(?)としてよく言われるのが,「死亡後に凍結される前に引き出せ!」というテクニック(?)ですが,これも使途不明金問題等を誘発する危険がありますから,保険や共済を利用する方法がおすすめですね。
相続の相談が多いことから,近日中,相続に特化したHPを作成する予定です。こちらもご参照ください。
「刑事弁護人」
亀石倫子(みちこ)先生。先般,GPSを利用した捜査手法について,画期的な最高裁判決を勝ち取った,有名な弁護士です。他,医業の中にタトゥーを彫る行為が含まれるかを問う裁判など,耳目を集める刑事裁判を担当しています。
GPSの事件は,みな,経験年数10年未満の6人が,法科大学院で学んだことを活かしながら,基礎から立論して対応し,大法廷判決で,画期的な違憲判決を勝ち取っています。
その舞台裏と言いますか,受任から大法廷弁論・判決まで,詳細に描かれており,大変勉強になりました。
もちろん,弁護活動というのは,事件によって人によって,1つ1つ異なるものです。一般的にどういうことに気を付け,どんな法的問題があり,どのように対応するかということについては,文献等もありますが,最初から最後まで,事件をトレースするということは,実はめったにありません。守秘義務もあるので,そう容易に開示することもできないのです。その点,(多少の脚色・表現等の問題はあるかもしれませんが)最初から最後まで,1人の弁護人の弁護活動をトレースして学ぶことができるというのは,貴重な機会です。弁護士としては,ぜひ,参考にさせていただき,今後の糧にしていきたいです。
さて,依頼者とのコミュニケーション,新たな論点に挑むために多数の論文を読み漁ったこと,学者の意見書を求めたこと,一審から後退した控訴審に対する憤怒,上告するにあたっての書記官とのやり取り,元裁判官のコメント,実際の弁論の様子など,さまざま参考になることがありました。なかでも,大法廷の最高裁の弁論など,めったに経験できるものでもないですし,非常に興味深かったです。弁論で「警察官が常時くっついている」と例えてGPSの違法性を論じたことについても,直前まで粘って粘って,直前でひらめいたアイデアを基にしているなど,やはり諦めないで取り組むことが必要なんだなと感じました。
ロースクール出身の6人が,いわゆる若手だけの弁護団で,判決を勝ち取ったというのも,励みになります。
このような貴重な本は,大切にしていきたいですね。読み物としても十分に面白いですので,一般の方にもおすすめです。