私(西村幸太郎)の一連のブログ記事です。私がどういう人間なのか、どういう活動をしているのか、どんなことを考えているのか、どんな知識やスキルを持っているのか、信頼に足る弁護士か、などなど、たくさんの疑問をお持ちの方もおられると思います。そのような方々は、是非こちらの記事を御覧ください。
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ほんとうの「ドラッグ」
DARC(=DRUG ADDICTION REHABILITATION CENTER)という施設があります。薬物依存の方の支援をする施設です。その創設者,近藤恒夫さんも,自身が薬物に依存していたという経験者です。その著書として,「拘置所のタンポポ」が有名ですが,「ほんとうの『ドラッグ』」という本も,読みやすく,それでいて,経験者しか語れない,凄みを感じさせる内容の本です。
薬物依存は,「否認の病」とも言われるようです。自分は大丈夫,いつでもやめられると思っていても,その実,いつまでたってもやめられない…。薬物依存は,意思の問題ではないとも言われており,どうすれば解決できるのか,刑事弁護等で,頭を悩ますことも,少なくありません。私自身,経験したこともないわけですから,あまり偉そうに上から解決法を示すこともできないわけです。薬物依存が疑われる方には,「とにかく読んでみて」と本を渡して読んでもらう。何かしら感じるところはあるはずです。
著者が,覚せい剤を使用したきっかけは,歯が痛くて,痛み止めを所望していた際,「覚せい剤,打ってみる?」と言われたことだそうです。最初は,そんなきっかけでしたが,たちまち覚せい剤のとりこになって,アリ地獄のような,ドラッグの悲惨なわなが待ち構えていたと述べています。その背景。家が半焼した際についた嘘。父母が離婚して,父のことを訪ねられるたび,父は戦争で死んだと言い続けたこと。その2つの嘘が自分の心を重苦しく,さみしくさせたといいます。親しくしていた先生が,ヒロポンの中毒者だったことも,薬物使用のハードルを下げさせたのではないか。そのように分析しています。
では,著者が,どうやって,立ち直ったのか。薬物依存を防ぐ1番確かな方法は何か。答えは「友情」とのこと。著者は,アル中の神父さんに誘われ,ミーティングに参加するようになって,人生が変わります。中毒者の特徴である「明日から」を止めよう。これについても,考えが変わります。「明日のことはだれにもわかりません。だから,今日のことだけを考えましょう。just for today(今日だけのために)」…更生の経過は,是非本を読んでいただきたいです。おすすめします。
最後に。著者は,裁判官に言われた言葉を片言も忘れたことないと言います。
「刑務所という自由のない場所で,自分の意志によらずに覚せい剤をやめさせられるのではなく,覚せい剤を使える事由の中で自分の意志でやめることのほうを,わたしはあなたにしてもらいたい」
自首について
自首(刑法42条)とは,犯人が捜査機関に自発的に自己の犯罪事実を申告し,その訴追を含む処分を求めることをいいます。
自首が認められると,裁判官の裁量により,減軽がされる可能性があります(自首の効果)。
こうした定めがある趣旨は,①犯罪の捜査及び犯人の処罰を容易にさせること,②無実の者の処罰の危険を避けること,③予備罪等について犯行の着手を未然に防止すること,③犯人の改悛による非難の減少などといわれています。
自首が認められるためには(自首の要件),①捜査機関に発覚する前に,②犯人が自発的に,③自己の犯罪事実を,④捜査機関に申告すること,が必要です。
④捜査機関に申告するにあたっては,代理人はNG(刑訴法245条が240条を準用していない)だが,使者によるのはOK。ただ,この場合は,使者の供述が本人の自首と解するより,本人が使者を介在して自首する旨の意思表示をしたと解し,本人による直接の申告によって,自首が完結したものと見るべきではないかと思います。
手続面では,刑訴法245条が,告訴の手続を準用しています。自首の方式としては,書面又は口頭で検察官又は司法警察員にこれをしなければなりません。
刑訴法335条2項の事項=「法律上の成立を妨げる理由…となる事実」「刑の加重減免の理由となる事実」にあたるか。自首は後者に当たるように見えますが,これは必要的加重減免事由に限るとされていますから,裁量的に減免し得るに過ぎない自首はこれに当たらない(特別に必要的減免が定められている罪であれば別)ということのようです。
最後に,捜査機関が従うべき犯罪捜査規範では,以下のような定めがあります。
第68条(自首事件の捜査) 自首のあった事件について捜査を行うに当たっては,次に掲げる事項に注意しなければならない。 ⑴ 当該犯罪または犯人が既に発覚していたものでないかどうか。 ⑵ 自首が当該事件について他に存する真犯人を隠すためのものでないかどうか。 ⑶ 自首者が,自己が犯した他の犯罪を隠すために,ことさらに当該事件につき自首したものでないかどうか。
ご参考までに。
コンプライアンス研修
平成30年2月28日,豊前市役所職員向けに,コンプライアンス研修の講師を担当させていただきました。
「不正のトライアングル」(①動機,②機会,③正当化)について紹介をした上,私生活上の事情が不正の背景となりやすいこと,陥りやすい私生活上の問題,不正防止の体制整備,最後に法規範を乗り越えて犯罪に走らない高い倫理観の涵養などの諸点について,具体的にお話しさせていただきました。
200名ほどを前にお話しするのは緊張しました。 少しでもご参考いただけると幸いです。
当事務所は,研修会・講演会の講師なども積極的に行っています。ご用命の方は,ぜひお声掛けください。
執行猶予取消請求事件の口頭弁論
弁護士のなかで,刑事事件をよく扱っている方は比較的多くいると思いますが,そのなかでも,「執行猶予取り消し請求事件」を経験した弁護士は多くないと思います。
被告人が,1度,裁判を受けて,有罪になったものの,執行猶予がついた。ただ,保護観察がつき,守るべき事項が課されて,これを破ったら,執行猶予取消しになるかもよ,と注意されていた。その上で,守るべき事項,たとえば被害者に近づくなとか,そういうことを守らなくて,保護観察/検察官から,執行猶予の取消しを求められた。そんな場合です。
事件の数自体が少ない上に,国選対象事件ではないので,そのような局面に遭遇すること自体が珍しいものです。私は,この事件に直面し,国選が使えないため手弁当で行いつつ,いろいろ手探りで手続きを行ったため,ほかに事件を担当される弁護士や,自分で対応せざるを得なくなった被請求者のために,雑感めいたことを記載しておきたいと思います。
珍しい手続だったので,法文,手続などを確認しますが,実務上の取扱いなどよくわからないところもあり,執行猶予取消請求事件の口頭弁論について検討されている弁護士のブログの記載を参考にしました。
手続は,こちらをみていただければ,詳しく記載されていますので,割愛します。
おそらく,イメージとしては,刑事の第1回口頭弁論手続に近いのかなと思いました。検察官が審理対象を示し,これに被請求者と弁護人が意見し,その後証拠調べを行って,保護観察官/検察官/弁護人/被請求者の最終陳述を行って,決定が出ます。冒頭手続→証拠調べ手続→弁論手続→判決と進む刑事事件の進行に似ているのかなとは思いました。
しかし,いくつか,やりづらいところがあります。まず,最初に,検察官の審理対象の示し(執行猶予は取り消されるべき)に対し,意見を求められます。おそらく,刑事事件でいう,罪状認否にあたるイメージだと思います。しかし,検察官が述べているのは,事実というより,「取り消されるべき」という評価であって,認否がしづらいものです。そのまま意見を述べると,その後にある最終陳述(刑事事件でいう弁論になるのでしょう)との区別がつかなくなってしまいます。実際,私が経験した事件では,最初の意見を双方が詳しく述べたため,のちの最終陳述については,裁判官が双方に,「詳しく述べられたので,同様ということでいいですか。」と述べていました。証拠調べする前と後で意見が同じでいいのか??という素朴な疑問が残ります。最初の認否,最後の最終陳述でペーパーを用意するか?も悩みます。どうしても重複してしまうような気がするのです。 あとは,「被請求人」というのが,どうしても呼びづらかったですね。
いまだに,どうするのが正解なのかはわかりませんが,逆に言えば,弁護士によっていろいろと工夫の余地があるのでしょう。私が相談したベテランの刑事の先生は,「前例がないということは,なんでもありということだ。創意工夫で,いろいろとやってみなさい。」とアドバイスいただき,そのとおりだと思いました。
裁判例等も調べてみましたが,やはり数は少ないですね。どこかに,まとまった参考裁判例集などがあれば,実際に担当するときには,非常に助けになるかもしれないと思いました。法律書籍を扱う出版社には,ぜひ検討していただきたいです。
少しでも,手続に直面した当事者等のお役に立てれば幸いです。
裁判員裁判の功罪
長きにわたる裁判員裁判が終わって一息。この機に,裁判員裁判に関する雑感を記載しておきます。
私は,基本的には裁判員裁判肯定派です。が,一方で,かなり検討の余地があると考えています。 私が,弁護士過疎偏在問題に興味をもつきっかけとなった,司法制度改革に関する卒業論文を書く中で,裁判員裁判についても検討をしています。市民に司法を浸透させる。司法を身近に感じてもらう。市民の手に裁判を取り戻す。市民の常識を裁判に反映させる。とても素晴らしいことだと思います。
ただ,今回も裁判員裁判をしていて思ったのは,「だれのための裁判員裁判か。」という疑問です。刑事訴訟法は,ひとことでいえば,「被告人の権利を守るため」につくられたものと理解しています。人が人を裁くという営みは,きちんと手続が保障された上,裁判官の判断に信用があってこそ,成り立つものと思います。その判断に市民の常識を反映させ,判断の信用を担保させるという趣旨はよいとしても,いまの裁判員裁判は,裁判員の負担を過剰に気にし過ぎな気がします。ベストエビデンス(証拠の厳選)の名のもとに,必要な証拠さえも採用されずに簡略化されているような感覚がぬぐえません。公判前整理手続が予想以上に多数回なされ,被告人の身柄拘束期間は長期化し,なかなか審理日程も決まらない。改善の余地がかなりあるような気がします。 また,検察官の求刑が,従来より重くなっているような気がしてなりません。 被告人のことを考えての手続なのか。改めて検討が必要と思います。
また,制度設計,特に対象事件は再検討の余地があるのではないかと思います。純粋な事実認定に関して,市民の常識を反映させるということであれば,ある程度納得できるところがあります。しかし,評価的な要素をかなり含むもの,または,あまりに専門的な検討が必要なものについては,裁判員裁判対象事件から外すべきではないかと思います。たとえば,責任能力が問題になる事件や過失で専門的な物理・科学の知識・検討が必要な事件,放火で専門的な鑑定の評価が必要な事件など。これらは,「市民の常識を反映させる」という趣旨が,必ずしも合致しないような気がしています。それから,死刑と量刑判断では,審理する内容が違いますから,そもそも制度として審理を別にすべきなのではないかと感じています。
市民にわかりやすく事件を示し,市民の常識を反映させるということで,事件/法的観点の本質に迫り,公判における活性化した審理が実現できるようになった(と思いたい)という点では,公判の在り方に良い影響をもたらしたと思いますが,改善の余地は相当あるはずです。実務家の立場から,これからも情報発信できればと思っています。
刑法改正について(主に性犯罪関係)
平成29年6月16日成立・平成29年7月13日施行,刑法が改正されました。感触として,この話,結構話題にのぼることが多いように感じるので,概略をメモしておきます。
改正の全体像; ①性犯罪の非親告罪化 ②「強姦罪」から「強制性交等罪」への変更 ③監護者による性犯罪に関する規定の新設 ④性犯罪に関する法定刑の引き上げ
①性犯罪の非親告罪化について; これまで,強姦罪などは,被害者の告訴がなければ,刑事裁判ができませんでした。被害者のプライバシー情報が,公開の法廷で公になってしまうからです。このたび,告訴がなくても,裁判ができるようになりました。被害者のプライバシーとの折り合いをどうつけるかが課題といえます。 改正刑法施行前に犯した罪については,施行の際すでに法律上告訴がされることがなくなっているもの(告訴が取り消された場合など)を除き,施行後は,告訴がなくても起訴が可能になります(経過措置)。 これまで,示談ができれば,告訴取下→起訴されないということがありました。しかし,今後は,示談したからといって,必ず起訴されないというわけではなくなったといえます。影響は大きいかもしれません。
②「強制性交等罪」へ; これまで,強姦の客体は女性に限られていましたが,これからは,暴行または脅迫を用いた「性交,肛門性交又は口腔性交」(性交等)を「強制性交等」と定義し,男女の別なく,刑法の適用があることになります。
③監護者による性犯罪に関する規定の新設; 18歳未満の者に対し,その者を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じてわいせつな行為をした者や性交等をした者は,暴行又は脅迫を用いない場合であっても,「強制わいせつ罪」「強制性交等罪」と同様に処罰されます。 性的虐待に対する厳しい姿勢を示した改正といえるかもしれません。
④性犯罪に関する法定刑の引き上げ; 強姦罪 3年以上の有期懲役 → 5年以上の有期懲役, (準)強姦致死傷罪 無期又は5年以上の有期懲役 → 無期又は6年以上の有期懲役, 従前の「集団強姦罪」「集団強姦致死傷罪」は,削除される。従前でいう強盗強姦罪も,強姦強盗罪(?)も,強盗・強制性交等罪(無期又は7年以上の有期懲役)で統一。
「運命の逆転」
本日は,映画のレビューを書きます。 みなさんは,クラウス・フォン・ビューロー事件をご存知でしょうか。上級階級のスキャンダルということで世をにぎわせたという冤罪事件です。
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【クラウス・フォン・ビューロー事件】
大富豪クラウス・フォン・ビューロー氏が,突発性低血糖症を患っていた妻サニーに対し,インスリンを過剰投与することにより,妻を植物状態にしたという被疑事実で裁判にかけられた,殺人未遂被告事件。 被告人のカバンからインスリンの注射器が出てきたなどされていたが,当時のインスリンは要冷蔵であったため,カバンに入っていたインスリンに効力があるのかなど,いくつも疑問点があった。 クラウスは有罪とされたが,高名なハーヴァード大学教授アラン・ダーショウィッツを雇って控訴し,弁護団は,警察の捜査を丁寧に検討し,その杜撰さを証明した。 その後,被告人は,無罪となる。 妻サニーは,28年間植物人間のまま,平成20年12月に息を引き取った。
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映画は,植物人間になった妻の登場からはじまります。映画のなかでは,基本的に,クラウス・フォン・ビューロー氏やアラン・ダーショウィッツ氏視点で,裁判が進んでいく様子が描かれますが,時折,植物人間である妻目線(ナレーション?)のセリフがはさまり,錯綜する事実関係,思惑,深まる謎などが表現されます。みどころ満点のサスペンスです。ただし,映画が公開された時点において,当事者がほとんど生存していたこともあって,結末は,少々ぼかされていたようです。
弁護士目線でみても,アラン・ダーショウィッツ氏を中心に,衝突しながらも,多くの弁護士が,事実関係,法律関係,裁判例などを徹底的に洗い出し,取り組もうとする姿,一方で,依頼人を信じてよいものかどうかという葛藤のなかで,弁護活動を進めていく難しさなどが描かれており,考えさせられるところがありました。
この作品でアカデミー賞主演男優賞を受賞した,ジェレミー・アイアンズ氏(クラウス・フォン・ビューロー役)の怪演もみどころです。 ぜひ1度,鑑賞してみてください。
刑事責任能力
刑事事件において,その人が,是非の弁別ができない,又は,行動を制御できない場合に,犯行をしてしまったら… そんな場合に,その人を,法的に非難できるのか。 そのような場面が,刑事責任能力が問題になる局面であり,法律家にとっても非常に難解で,検討の難しい問題です。 今回は,刑事責任能力について,メモ程度ですが,ポイントをまとめてみました。必要があれば,参考にしてみてください。
1 責任能力の意義
責任能力を定義するのは難しい。そもそも,責任能力とは,法令上の用語ではない。刑法39条では心神喪失,心神耗弱ということばが使われている。条文に即して説明する方が,理解しやすいか。
心神喪失
①精神の障がいにより,
②良いことと悪いこととの区別がつけられない,あるいは,
③その区別に従って自分をコントロールすることができない
心神耗弱
これらの能力が著しく低下している
生物学的要素
精神の障がい(①に対応)
心理学的要素
弁識能力(②に対応)+制御能力(③に対応)
=動機の了解可能性,行動の合理性,犯行態様など
↓
2 責任能力の判断方法:
⑴ 責任能力の判断は,究極的には裁判所が判断する法律問題であるが,
⑵ 生物学的要素やこれが心理学的要素に与えた影響の有無,程度については,専門家たる精神医学者の意見が尊重される(最判H20.4.25刑集62巻1559頁)。
⑶ これを前提に,「鑑定書全体の記載内容とその余の精神鑑定の結果,並びに記録により認められる被告人の犯行当時の病状,犯行前の生活状態,犯行の動機・態様等を総合して」行われるとする
のが,判例の考え方(最判S59.7.3刑集38巻8号2783頁)。そのなかでも,
⑷ 総合考慮を行う際に,中間的な要素として,病的体験の直接支配性・本来の人格傾向が重視される傾向にある(最判H21.12.8刑集63巻11号2829頁)。
3 鑑定の種類
⑴ 簡易鑑定 =起訴前に捜査機関が終局処分を決めるための参考にする目的で実施する簡易な鑑定で,鑑定留置を伴わないため通常の勾留期間中に行われるもの。
⑵(検察官の嘱託による)起訴前鑑定 =起訴前に捜査機関が実施する鑑定で,鑑定留置による病院施設での留置を含む本格的な鑑定。起訴前本鑑定。
⑶(弁護人による)当事者鑑定
⑷ 裁判所による鑑定(職権鑑定)
4 証拠開示の重要性
⑴ 類型証拠開示請求にて,鑑定書の開示を求める。
⑵ 鑑定書をみれば,鑑定において鑑定資料として用いられている資料が読み取り得るので,それらも類型証拠開示の対象となり得る。
5 検察官がよく主張する間接事実
⑴ 動機の了解可能性→間接事実レベルで問題になり易い
⑵ 犯行の計画性
⑶ 犯行後の事情 →間接事実レベルで問題になり易い
⑷ 犯行の人格異質性
6 検察側の鑑定を弾劾する反対尋問の視点(最判H20.4.25刑集62巻1559頁)
⑴ 鑑定の前提事実←証拠開示の有効活用
⑵ 鑑定の前提条件
⑶ 鑑定の論拠
7 その他参考
⑴ 7つの着眼点
⑵ 8つのステップ
…
以上,簡単ですが,ご参考までに。
裁判員裁判声掛け事件
平成29年1月6日,新年早々に,裁判員声掛け事件の判決が出ました。新聞記事をみた程度で,詳細を知っているわけでも,事件記録を見たわけでもありませんから,軽々なことは申し上げられませんが,裁判員制度の根幹である,裁判員の保護につき,あらためて考えなければならないですね。
ところで,先日,久しぶりに,三谷幸喜原作・脚本「12人の優しい日本人」を見ました。これは,著名な映画「12人の怒れる男」をベースに,仮に日本に陪審制度があったら…こうなる!という姿を描いたものです。三谷幸喜作品のなかでは,他の作品に比べてあまり知られていないように思われますが,私のおすすめです。「12人の怒れる男」は,ミステリー/シリアスタッチで,陪審員は真実を発見するものだという姿が全面に押し出されているように感じるところですが,対して「12人の優しい日本人」は終始コメディー・タッチであり,しかし結局真面目に議論して結論に到達するということで,非常に国民性やその国の考え方があらわれているのではないか,そのコントラストが面白いと思っています。ぜひ見比べてください。
さまざまな議論のある裁判員制度ですが,裁判員の多くは,「よい経験になった」など,前向きなコメントをしているようです。さきに紹介した「12人の優しい日本人」ではありませんが,日本人は,あまり争いを好まないながらも,いったん引き受けると,引き受けたからには真面目にやる(義理人情の世界?)というような国民性をもっているように思います。本件のような事件は,どちらかといえば例外的な事件なのでしょうし,普段裁判員は自分が危険いさらされることなどはあまりイメージしていないものではないかと思いますが,いったんこのような事件が報道されると,国民が不安に陥り委縮して,もともとの趣旨である「国民の常識を裁判に反映させる」という原点に,大きな支障が生じることになるものと思います。残された課題は大きいと思います。裁判員保護のため制度的な整備は必要ないのか,裁判所の個別の運用で見直すべき点はないのか,私も法曹の一員として,検討を続けたいと思います。
【参考:裁判員法】
第七章 罰則
(裁判員等に対する請託罪等) 第七十七条 法令の定める手続により行う場合を除き、裁判員又は補充裁判員に対し、その職務に関し、請 託をした者は、二年以下の懲役又は二十万円以下の罰金に処する。 2 法令の定める手続により行う場合を除き、被告事件の審判に影響を及ぼす目的で、裁判員又は補充裁判 員に対し、事実の認定、刑の量定その他の裁判員として行う判断について意見を述べ又はこれについての 情報を提供した者も、前項と同様とする。
(裁判員等に対する威迫罪) 第七十八条 被告事件に関し、当該被告事件の裁判員若しくは補充裁判員若しくはこれらの職にあった者又 はその親族に対し、面会、文書の送付、電話をかけることその他のいかなる方法をもってするかを問わず 、威迫の行為をした者は、二年以下の懲役又は二十万円以下の罰金に処する。 2 被告事件に関し、当該被告事件の裁判員候補者又はその親族に対し、面会、文書の送付、電話をかける ことその他のいかなる方法をもってするかを問わず、威迫の行為をした者も、前項と同様とする。
犯罪
犯罪や事件のことについて、法律の立場で書いていきます