私(西村幸太郎)の一連のブログ記事です。私がどういう人間なのか、どういう活動をしているのか、どんなことを考えているのか、どんな知識やスキルを持っているのか、信頼に足る弁護士か、などなど、たくさんの疑問をお持ちの方もおられると思います。そのような方々は、是非こちらの記事を御覧ください。

相続に特化したページを公開しました。

先般,相続に特化したページを公開しました。

まちの相続相談所

家事事件は一般的に増加傾向と言われますが,幣所の実感としても,特にここ最近,相続に関するご相談が顕著に増加しております。

ご依頼者様への参考にもしていただけると思いますし,同業者に参考にしていただくことも可能な水準で,記事を執筆しているつもりです。

ご相談のアクセスを容易にするための取り組みの一環ではありますが,今回は,あえて相談地域を限定する形でアンケート機能をつけました。地元地域のために尽力する弁護士ですので,他の地域の弁護士が十分対応できる場合は,私が対応する必要はないだろうという考えです。

今後とも,どうぞよろしくお願いいたします。

葬儀費用の取扱いについて

相続のご相談の際,必ずと言ってよいほど出てくるのが,「葬儀費用を●●が出した,出してない」という問題です。少しコメントしてみます。

まず,法理論的には,厳密に言うと,葬儀費用の問題は,相続・遺産分割とは別の問題ということに注意してください。相続というのは,被相続人の死亡により発生するものですが,葬儀費用は,被相続人死亡後に発生するもので,相続債務ではありません。さらに,葬儀会社との関係では,契約をした人が債務を負担します。問題は,「最終的な」費用負担者は誰かということです。

喪主が負担すべきという説,相続人が法定相続分で負担すべきという説など,複数の説が対立しており,確定した最高裁判例はありません。 近時は喪主負担説が強くなっていると言われますが,経験上,遺産分割調停では,法定相続分で負担するという処理もよく見られます。遺産分割で,葬儀費用を法定相続分で負担すると不公平だと感じられるような分け方をした際に,端的にいうと長男が優遇して遺産をもらっているような場合に,香典ももらってるんだから,葬儀費用ぐらい負担してよということで,争いになることが多いから,喪主(多くは長男などでしょう。)負担とされることが多いのかもしれませんね。

以前,私のところに,セカンドオピニオンを求めて相談に来られた方から,「前の弁護士から,葬儀費用は喪主が負担すると決まってると言われた。」と述べていた方がいましたが,決まっているわけではないですし,個別事案に応じて妥当な解決を図っているというのが実情ではないでしょうか。

香典は,被相続人の死後に,遺族へ贈与されたものと理解しますが,通常,香典から香典返しを差し引いた金額を,葬儀費用に充当するということになるでしょう。

(葬儀費用-香典+香典返し)÷相続分=各人の負担額

という形で,解決を図っても良いのではないでしょうか(特に調停)。

負担するのはよいが,金額が高すぎるというときもあります。妥当な金額として合意できる範囲で相続人で負担して,それを超える部分は,葬儀を契約した人(喪主)が負担するという解決も,一考ですね。

なお,ここでいう葬儀費用とは,遺体搬送費・葬儀会社への支払・葬儀場への賃料・お布施・火葬費用などです。これらに付随する通夜・告別式の接待用飲食代,初七日の費用,四十九日の費用は微妙で,葬儀費用に含めるかどうか争いがあります。

葬儀後の弔問客の接待費用,一周忌,三周忌,墓地の取得費,仏壇購入費などは,祭祀承継者としての義務なので,葬儀費用ではありません。

領収書のないものはどうしましょうか。あるに越したことはないですが,こと葬儀に関して言うと,性質上,慣習上,そもそも領収書の発行がないということも結構あります。裁判例も,そのような実情を踏まえ,葬儀の実施そのものを疑うなど特段の事情がない限り,領収書などの資料がなかったとしても,葬儀を実施する以上,社会通念に照らし相当な額が経費として生じたことが推認されるとしたものがあります(大阪高判H27.7.9)。

遺体・遺骨は,葬儀とはまた別に考え,祭祀財産に準じて扱い,祭祀承継者が引き継ぐことになるでしょう。

祭祀承継者をどのように決めるか。被相続人の指定があればその指定に従います。指定がなければ監修に従うとされてますが,実際は慣習に従って定められた審判例はほとんどないようです。最終的には審判で祭祀承継者を決めますが,その際は,①被相続人との親密性と,②被相続人の生前の意思を判断基準にします。

紛争の予防についてですが,祭祀承継者は,遺言で指定ができますので,遺言を作成することを検討してみましょう。

葬儀費用については,保険や共済で,死後の葬儀費用に相当する金員を喪主にすぐに一括で支払うという内容の商品があるようで,実際に,依頼者のなかには,複数名,これを利用して備えている方がおられました。

葬儀費用の対策(?)としてよく言われるのが,「死亡後に凍結される前に引き出せ!」というテクニック(?)ですが,これも使途不明金問題等を誘発する危険がありますから,保険や共済を利用する方法がおすすめですね。

相続の相談が多いことから,近日中,相続に特化したHPを作成する予定です。こちらもご参照ください。

相続法改正1-自筆証書遺言の方式を緩和する方策

法曹界では,基本中の基本の法律といえる,民法,なかでも,債権法と相続法の改正があるということで,その動向が注目を集めています。

実は,既に,相続法改正については,すでに施行されているものがあります。「自筆証書遺言の方式を緩和する方策」です。これは,2019年1月13日に施行されています。法務省のHPに詳しいです。

自筆証書遺言は,簡単に作成できる反面,従前,全部自書が要求されていたため,遺産の内容が複雑な場合も財産目録を含め全部手書きでなければならず,大変不便を生じていました。遺言者が亡くなった後はその意思を確認できないため,遺言者の最終意思を確認するために自書要件が厳格に求められていたのであり,趣旨はわかりますが,不便を解消すべき必要性も指摘されていました。そこで,今回の改正です。

今回の改正では,自筆証書に,パソコン等で作成した目録を添付したり,銀行通帳のコピーや不動産の登記事項証明書等を目録として添付したりして遺言を作成することができるようにしています。ただし,財産目録には,前ページにおいて署名押印が必要です。これにより,遺言者の最終意思の確認の必要性も満たそうとするものですから,忘れないようにしましょう。

【参照条文】

(自筆証書遺言)

第968条

1 自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければな らない。

2 前項の規定にかかわらず、自筆証書にこれと一体のものとして相続財産(第997条第1項に規定する場合における同項に規定する権利を含む。)の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しない。この場合において、遺言者は、その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名し、印を押さなければならない。

3 自筆証書(前項の目録を含む。)中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。

遺産分割についてー1-

紛争性が高く,解決困難な事件類型として,遺産分割に関する問題が挙げられます。

遺産分割は,いくつもの法的論点がからみあい,遺産分割そのもののほかに,遺産分割の前提問題,遺産分割の付随問題があります。

遺産分割の付随問題とは,使途不明金・葬儀費用の負担・家賃・配当金・遺産管理費用・相続債務などに関する問題です。のちに述べるとおり,遺産分割そのものの問題ではありません。

なかでも,使途不明金は,付随問題とはいうものの,遺産分割4大論点と言われるほど,難しい問題です(ほかの3つは,①遺産の範囲,②特別受益,③寄与分。そして,④使途不明金というわけです。)。

さて,遺産分割というのは,弁護士にとっても,難しい問題だと書きました。整理しながら進めなければ,建設的な協議はできません。ここで,遺産分割調停においては,ある程度,進行の仕方が定まっていますので,これを参考にするとよいと思います。詳しくは,判例タイムズNo.1418「東京家庭裁判所家事第5分における遺産分割事件の運用」を参照されるとよいと思います。

①相続人の範囲,②遺産の範囲,及び③その評価を確定し,次いで,④各相続人の取得額(特別受益・寄与分の有無とその評価),⑤遺産の分割方法につき当事者の主張(意見)を整理することとし,各論点について対立点があるときはこれを調整して合意を形成する等して,段階的に手続を積み重ねていって,調停の成立又は審判による終局解決を目指しています(段階的進行モデル)。

手続選択についてですが,調停では,遺産探しは一切してくれませんので,最終的に,判明している遺産だけを対象にして調停し,判明していないものについては調停から外して処理するしかありません。仮に,遺産分割調停のなかで,遺産探し,使途不明金の問題が出てきたら,遺産範囲確定の問題(上記①の問題)として,多少の協議はできますが,まとまらないと,調停から外すとせざるを得ないわけです。使途不明金については,訴訟で解決となります。

遺産分割の対象となるのは,以下の5要件をすべて充たす場合です。

①相続により取得した遺産である。(遺産要件),②相続時に存在する。(遺産要件),③分割時にも存在する。(遺産分割対象要件),④未分割である。(遺産分割対象要件),⑤積極財産である。(遺産分割対象要件)

使途不明金としてよく問題となる,相続「後」の預金無断解約は,③の要件を満たさず,相続「前」の預金無断解約は,②を満たさないので,使途不明金問題は,遺産分割調停の対象にならないのです。この点は,よく間違われるため,注意が必要です。

私も,対立の激しい使途不明金問題を担当したことがあります。これに関する記事,遺産分割に関するより詳しい記事を,追って,いろいろと書いていきたいと思います。

上毛町商工会講習会(事業承継について)

12月13日,上毛町商工会の講習会に講師としてお招きいただき,事業承継のお話をしてきました。当事務所の開所式にお越しいただいた会長様とのご縁です。ありがたいことですね。

事例中心で検討し,工夫をしたつもりですが,百戦錬磨の経営者方ばかりを相手にしてのお話ですから,非常に緊張して,また悩んで準備・お話しました。内容は,また別の記事でもいろいろ書いていこうと思います。

講習会中にも紹介しましたが,金子コード株式会社の三代目社長,金子智樹氏が書いた「社長ほど楽しい仕事はない」という本によると,事業承継は,「譲られる側が主体だ」と言います。

特に創業者社長などは,最後に大きな事業を成功させて会社を去ろうとする場合がありますが,きちんと譲って,後進がきちんと会社を発展させたということこそが,なによりも難しい経営判断を見事成し遂げ,最も偉大な功績を遺したということになるのではないでしょうか。譲られる側に焦点をあてるという指摘も,的を得ていると思いますが,私としては,「お客様のため,お客様に価値を提供する会社のため」を考えると,「これから会社を発展させていく譲られる側主体の事業承継」になるのかなと思っています。

質問で,なかなか継いでくれる人がいない,年齢的には引退すべき年齢だが,生活のためにいつまでたっても引退できない,そういう経営者も多い,そういった場合,どうお考えかという質問もありました。とても難しい,それでいてとても現実味のある問題です。どちらかというと,備えておいた方がいいですよという形の講習になりがちなところで,現実,こういった場合どうすればよいのかと問われると,考えさせられるところがありました。ありがとうございます。私もさらに考えます。

事業承継は,①後継者確保・選定・育成・承継方法をめぐる問題,と,②財産をめぐる問題,の大きく2つに分かれます。法律家が関与するのは,どちらかというと②の方が多いです。しかし,昨今事業承継の困難性が叫ばれているのは,むしろ①の問題が大きいです。さらに知見を広め,①の問題,さらには質問にあった経営者の引き際の問題などについても,深めていきたいと思いました。

私の財産にもなる講習会でした。受講者にも,なんらか少しでも受け取っていただけるものがあったらいいなと思います。ありがとうございました。

節税目的の養子縁組の有効性

私は,何度か,養子縁組無効確認請求訴訟を担当したことがあります(いずれも勝訴)。そのためでしょうか,縁組意思の有無,縁組の有効性といった論点には,関心を寄せています。平成29年1月29日,最高裁で新たな判断が示されましたので,ご紹介します。

相続税の計算において,基礎控除は,3000万円+600万円×法定相続人の数,という計算式で算出されます。ですので,法定相続人が多くなると,基礎控除が大きくなり,節税になります。この点,法定相続人は,配偶者は必ず(民法890条),ほかに第1順位が子(民法887条),という形で定められています。配偶者は重婚が禁止されている(民法732条)ことから,配偶者の数を増やすという方法で,節税はできません。ところが,子は,人工的に親子になる方法(養子縁組)があることから,子の数を人工的に増やして,相続人の数を増やし,基礎控除を増やし,結果,節税をすることができるわけです。

判例の事案では,税理士のアドバイスもあり,節税のために養子縁組をしたところ,そのような縁組では,縁組が有効である要件である「縁組をする意思」(民法802条1号)が認められないのではないか,という点が問題となりました。

判例は,相続税の節税の動機と縁組をする意思とは併存し得るものであり,「専ら相続税の節税のために養子縁組をする場合であっても,直ちに当該養子縁組について民法802条1号にいう『当事者間に縁組をする意思がないとき』に当たるとすることはできない」と判断しています。つまり,節税目的の縁組は有効ということですね。

気になるのは,「専ら」という言葉がついてある点。その後に「前記事実関係の下においては…『当事者間に縁組をする意思がないとき』に当たるとすることはできない。」と書いてあるため,事例判断なのかな?と思ったりもしましたが,「専ら」節税目的でも縁組意思なしという判断なので,縁組の有効性につき節税目的の有無は無関係と読んでよいのでしょう。「前記事実関係の下においては…」のくだりは,その他の可能性を含めても,縁組意思を否定する事情は見当たらないという検討過程を記していると読み取ればよいのかな,と思います。

ところで,新聞を見ていると,国税庁は,課税逃れが明白な縁組では養子分の控除を認めない方針を示しており,今後も維持する方針とのこと。税務の世界では,実体法の考え方と異なる判断をすることがままありますが,税務の世界では,実体法上は縁組が有効(法律上の子であり相続人になる)でも,税務上は子=相続人として扱わず,基礎控除を大きくすることは認めないということになるのでしょうか。税務上の解釈の問題と,そもそもどうやって「課税逃れが明白な縁組」を調査・判断するのかという問題が残されているように思います。

今後も,縁組意思の論点について,考えていきたいと思います。

預貯金は遺産分割の対象となるか

先日,平成28年12月19日,遺産分割にとって非常に重要な最高裁判例が出ました。

「預貯金が,遺産分割の対象となる。」という判例です。

可分債権は,被相続人の死により,法定相続分により相続人に(遺産分割を経ず)当然に分割承継されるとされています。預貯金も同様に可分債権と考えれば,預貯金は遺産分割の対象とならない,ということになりそうです。

しかし,従来から,預貯金と現金のなにが違うのだ(現金は債権ではなく物ですから,遺産分割の対象となるとされています。),預貯金が遺産分割の対象とならないと柔軟な分割協議ができないではないかなどとして,「預貯金は遺産分割の対象ではない」という考え方に対し,批判が多くありました。

相続人全員が同意すれば,あえて預貯金を遺産分割の対象にするということはできるとされています。実務では,この同意により,被相続人の預貯金を利用した,柔軟な分割協議をすることもありました。

今回の最高裁の判断は,そのような実情を踏まえて,満を期しての判例変更だったと言ってもよいのではないかと思います。

法律家として気になるのは,その理論構成ですが,最高裁は,預貯金の契約の実態を,詳細に検討しています。このあたりはさすがだと思いました。 預貯金にかかる契約は,基本的には消費寄託契約だが,振替などさまざまな手続の代行を担っているから,準委任としての性質も持ち合わせている,決済方法の1つとしての性格が強い,現金との差も考え難い,口座自体は1つのまとまったものと観念されている(解約も相続人がバラバラにやるというわけにもいかないだろう),定期郵便預金の趣旨いかん…などなど,種々の観点から法的な検討を行っており,参考になります。

一方で,今回の最高裁の判例を前提にすると,遺産分割がおわるまで,なかなか預貯金を引き出せなくなって,急ぎ引出しが必要な事態が生じても,対応できなくなるのではないか,などといった懸念も生じるでしょう。最高裁は,補足意見にて,この点につき,「遺産の分割の審判事件を翻案とする保全処分として,例えば,特定の共同相続人の急迫の危険を防止するために,相続財産中の特定の預貯金債権を当該共同相続人に仮に取得させる仮処分(仮分割の仮処分。家事事件手続法200条2項)等を活用することが考えられ」るとしています。

いずれにせよ,今回の判例変更で,実務に大きく影響が出ることは間違いないでしょう。持っている書籍の体系的な考え方まで,変わったりするのでしょうかね…

補足意見,意見なども多数あり,大変勉強になる判例です。さらに判例を読み込んで,今後の活動に活かしていきたいと思います。