私(西村幸太郎)の一連のブログ記事です。私がどういう人間なのか、どういう活動をしているのか、どんなことを考えているのか、どんな知識やスキルを持っているのか、信頼に足る弁護士か、などなど、たくさんの疑問をお持ちの方もおられると思います。そのような方々は、是非こちらの記事を御覧ください。
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本人による成年後見申立て
先日の成年後見研修会における質問について,もう1つ,記事を書いてみます。
本人による後見申立ては可能か。
意外と難しい問題なのです。問題の所在は,以下のとおりです。
後見相当(財産管理能力・判断能力がない)の人が,成年後見の意味を理解して申し立てできるのか。仮に,弁護士に委任して申立てをするのであれば,弁護士と委任契約が結べるのか。
民法では,後見の場合も,本人が申立てできると書いてあります(7条)。私は,条文上,認められている以上は,基本的に可能という考えです。 たとえば,認知症高齢者の方がおられるとします。この場合,常時判断できないわけではなく,波があるのが通常です(研修会では,ことばは悪いかもしれませんが,「まだらボケ」ということもあり得るという指摘があり,なるほど,そのように考えると,イメージはわきやすいのかなと思いました。)。日によって場合によって,時には十分に物事を正確に理解し判断できることもあります。しかし,全体的にならせば,やはり後見相当と判断されることもあるでしょう。この場合,判断能力が比較的正常なタイミングで,後見申立てを決意し行えば,本人の意思尊重の観点からも,問題はないと思います。このように,後見申立ての意味を理解して意思決定し申し立てる可能性がある以上,申立てが許されないということはないと思います。 そもそも,実際に後見か,保佐か,補助か,はたまたそうでないかは,裁判所の判断事項です。実際に審理してみないとわからないといえます。その意味でも,申立てが門前払いで受理されないというのはおかしいと思います。 さらに,厳密には,財産管理能力と申立てを理解して行う能力は,内容も程度も違うでしょうから,財産管理能力の点で後見と判断されたとしても,申し立てる能力はあるということも考えられます。
以上のとおり,本人申立ては可能と考えますが,法律上できることと,実際に本人申立てでやるべきか,どのようにするかは別問題です。 周囲に適切な支援者がいる場合,その人に丁寧に説明の上,後見申立てにつき理解を得て,その人に申し立てていただくという方法もあります。支援者がいない場合,ひとまずあきらめず探してみることもあり得るでしょう。 実際に本人申立てをする場合は,本人の本意で行えているものなのか,主治医,家族,介護担当者などの意思も参考にしつつ,常にチェックする必要があるでしょう。
弁護士が申立てする場合は,そもそも手続申立代理人として受任できるのか,本人に委任する能力とその意思があるのかを,同じく,慎重にチェックする必要があると思います。 この点,委任契約は,比較的内容が難しい契約と思われますので(スーパーで買い物するのとは内容が全然違う),後見相当と思われる場合は,一切受任できないという方もいるようです。 法テラスは,後見の本人申立てについては,一切扶助の決定をしないという扱いをしており,参考になります。(法テラス・民事法律扶助のお話は,また別に書きたいと思います。)
ちなみに,認知症高齢者のお話をしましたが,知的障害・精神障害の方の場合,比較的,判断能力の変化に,波が少ないようです。もちろんケースによるのですが,後見の本人申立てのハードルは,さらに1段あがるかもしれません。
大阪の家庭裁判所は,後見の本人申立てを認めています。全国的にも,知的障害者による後見申立てが認められ,後見が開始された例があります。窓口で申立書の受理につき難色を示されたら,粘り強く説得することも必要かもしれません。仮に,申立てが却下された場合,不服申立て(即時抗告)ができます。
本人の申立てが難しい場合,本来は,市町村長が申立てをすることができます。しかし,この制度では,4親等内の親族の調査とその意向確認に時間を費やしたり,予算の壁があったりなど,迅速適正な保護が図れない実情があります。そのため,本人申立てを検討せざるを得ないことがあるわけです。 せっかく,地域の弁護士と赴任したのですから,このあたりの運用について,市と協議するなどの機会もつくることができたらと思っています。
研修会でもお話しましたが,高齢者・障害者問題については,まわりの人,支援者のお力添えが必要不可欠です。一緒に悩みながら,地域の問題を解決していけたらなと思います。
成年後見人と身体侵襲行為
本日,「成年後見のイ・ロ・ハ」という演題で,研修を行いました。 内容は,ごくごく基本的なものをベースにお話ししたのですが,質問のレベルが高く,驚かされました。
身体侵襲行為(医療同意)についての質問があったので,書いてみたいと思います。
本人に,手術など身体侵襲行為の必要が生じた場合,成年後見人は,医療機関側が求めてくる医療同意をできるか(どう対処すればよいか)という問題です。
法的な結論は簡明で,成年後見人には,そのような同意権はありません。 成年後見人は,入院するにあたって必要な病院との契約など(医療契約)の代理権を有することはあるでしょうが,身体侵襲行為についての同意権はありません。 しかし,医療機関側は,リスクヘッジのため,同意を求めることがあります。医療機関側も,軽々に,ご本人のお体に侵襲することはできませんから,事情は十分に理解できます。そのため,(ほかに身寄りがあればその人に求めればよいですが,身寄りがなく,成年後見人意外に同意を求めることができない場合,)成年後見人に対して,同意を求めるというわけです。
では,成年後見人は,同意書にサインをしていいのか? 対応は,ケースと成年後見人のスタンスにもよると思います。しかし,前提として,法律上,成年後見人に,そのような「権限」はありません。 なので,法的には,そのような同意をしても,無意味ということになるでしょう。その旨,医療機関側に丁寧に説明した上で,手術をしてもらうことになると思います。どうしてもと言われた場合,同意しても法的に意味はなく,気休めにしかならない(責任はとれないしとる必要もない)けれども,それでもいいならサインしますよ,という形で,サインをする成年後見人もいるようです。 医師には,治療の義務がありますから,患者を放置するわけにはいきません。医師の心配を取り除いてあげて,スムーズに手術を行うためには,あり得る対応だと思います。
ところで,この問題の一環として,しばしば問題になるのは,予防接種の問題です。予防接種も,身体的侵襲を伴う医療行為ですから,やはり成年後見人には,同意権はないと考えられます。しかし,予防接種法に,以下のような規定があるので,同意権があるという解釈をする方もいるようです。
【予防接種法】 (予防接種の勧奨) 第八条 市町村長又は都道府県知事は、第五条第一項の規定による予防接種であってA類疾病に係るもの又は第六条第一項若しくは第三項の規定による予防接種の対象者に対し、定期の予防接種であってA類疾病に係るもの又は臨時の予防接種を受けることを勧奨するものとする。 2 市町村長又は都道府県知事は、前項の対象者が十六歳未満の者又は成年被後見人であるときは、その保護者に対し、その者に定期の予防接種であってA類疾病に係るもの又は臨時の予防接種を受けさせることを勧奨するものとする。
私は,単に「勧奨する」という規定から,同意権を導くことはできないと考えます。しかし,成年後見人は,本人に対し,少なくとも,予防接種を受けるよう働きかける必要があるのではないかとも考えています。
これらの問題は,法的な観点だけから考えられる問題ではありません。場合によっては生命にもかかわりかねない重大な問題ですから,今後一層,議論が深まっていくことを期待したいと思います。
成年後見等申立て‐どんな資料が役立つ?
豊前市は,高齢者(65歳以上)の割合が,人口の4割に達しようとしています。高齢化率が上がっているのは,どこの自治体も同じではないかと思います。 相談を受けて感じるのは,ご本人様に自覚はなくとも,支援者等からみれば,成年後見等の検討の必要がありそうな事案が多いことです。一方で,お金がかかるではないか,どうすればいいかわからない,面倒である…。いろいろな理由で,棚上げにされてしまっている現状があるのではないかということです。
この記事では,「どうすればいいかわからない」の部分に焦点をあて,とりあえず自分でやってみようとか,勉強してみようなどという場合に,どんな資料を参照するのが有効か,書いてみます。
私がおすすめするのは,福岡家庭裁判所が出している,「成年後見申立ての手引き」(H27.3版)です。(他県でも,同じように,手引きがあるようですね。) 理由は,以下のとおりです。
①一般の方向けで,非常にわかりやすい。(巷に書籍はたくさんありますが,専門的でわかりづらいものも多いです。)
②比較的薄い。(数百ページある書籍も多いです。読むにあたって挫折しないためには,重要なことだと思います。)
③利用者・家族など,一般の方に対しても,説明がしやすい。(①わかりやすいですし,Q&Aを多用するなど工夫しており,自学だけではなく説明にも使いやすいと思います。)
④実際の申立てに必要な情報が満載で,実用的。(書式もふんだんに使っています。)
⑤裁判所のホームページからダウンロード可能なので, ⅰ)無料で入手できる ⅱ)ご本人様・利用者・支援者などの間で情報共有ができ,連携がスムーズになる。(各々がバラバラの書籍を使っていると,こうはいきませんよね。)
⑥姉妹版の成年後見人のためのQ&A(1)(2)(H28.3版)があるので,実際の後見業務まで学ぶこともできる。
⑦判断する裁判所自身が出しているもので,信頼できる。(書籍はピンからキリまであります。)
仮に,とりあえず自分で勉強してみて,無理そうだったら,専門家への依頼も検討してみたいという方がおられましたら,これらを読んでみてから判断してはいかがでしょうか。 すでに,申立てをしようと決めている方々にとっても,今後どのように手続を進めていくのか/進んでいくのかを把握する上で,とても役に立つと思います。
成年後見等の制度は,ご本人様の権利利益を守りたいと思って利用する反面,ご本人様の権利を制限してしまうものでもあるので,弁護士にとっても,利用すべきか否かは,悩ましい場合が多いです。地域の方々と一緒に,最もご本人様のためになる方法について,考えていけたらと思っています。
研修会のお知らせ
平成28年11月18日(金) 14:00~16:00(受付13:30~) @豊前市総合福祉センター2階視聴覚室 (豊前市大字吉木955)
以上の日程・場所で,「成年後見制度について」と題して,研修会を行います。私も含め,弁護士3人によって,工夫を凝らして,楽しくも勉強になる2時間をお届けします。 参加対象者は,「希望する地域住民及び障害福祉サービス事業所職員(または従事者)」とされているようです。
たくさんのご参加をお待ちしております。
高齢の方のこと
高齢の方について、様々なことを書いていきます