私(西村幸太郎)の一連のブログ記事です。私がどういう人間なのか、どういう活動をしているのか、どんなことを考えているのか、どんな知識やスキルを持っているのか、信頼に足る弁護士か、などなど、たくさんの疑問をお持ちの方もおられると思います。そのような方々は、是非こちらの記事を御覧ください。

GPS捜査=強制捜査 判決

すでに新聞等でも報道されていますが,平成29・3・15,最高裁大法廷にて,注目すべき判決の言渡しがありました。GPS捜査は強制処分=令状が必要であり,検証令状など現行法上の令状で十分か疑義があるので,立法的措置が望まれるという内容です。

この事案では,ある窃盗事件の,①(目的)組織性の有無,程度や組織内における被告人の役割を含む全容解明の捜査として,②(期間)約6か月半,③(範囲)被告人,共犯者,被告人の知人女性(交際相手)も使用し得る④(対象)自動車19台に対し,令状なくGPSで移動状況を検索しています。

感覚としては,期間,範囲,対象ともに数字が大きいように思います。なかでも,最高裁がわざわざ知人女性の車両を使用し得る蓋然性に触れているところからすれば,この点を特に重視されているのかなと思いました。余計な(犯罪捜査に無関係な)情報を広く取得してしまうことの問題性に対し,警鐘を鳴らしているものと思われます。

私が,司法試験受験時代,問題集などで検討した際は,機械を用いて追尾するという形での捜査は,任意捜査で必要かつ相当な範囲で認められるという筋での議論が多かったような記憶があります。GPS捜査は「尾行の補助手段」という説明も,よく見かけるところです。そうした説明と比べると,今回の最高裁判決は,確かに,これまでとは一線を画する,注目すべき判決なのだと思います。

最高裁が,特殊な局面で令状の話に触れるときには,いわゆる強制採尿令状(最決55・10・23,最決平成6・9・16。「強制採尿は,医師をして医学的に相当と認められる方法により行わせなければならない。」「強制採尿のために必要があるときは,被疑者を採尿するに適する最寄りの場所まで連行することができる。」などといった条件を付した上での捜索差押令状により,強制採尿を行う実務が確立した。)の議論を思い出します。この議論においても,検証令状,捜索差押令状のどちらを利用するにも問題があったので,条件付捜索差押令状という形でその問題性をカバーし,最高裁が強制採尿令状という新たな令状を創造したとも評されているところです。一方,平成29・3・15最高裁判決では,さらに,既存の令状では疑義があり,立法的措置が必要だとまで判断しており,かなり踏み込んだ内容での判決になっていると思います。

X線検査を強制捜査として検証令状を求めた最決平成21・9・28など,近頃は,最高裁が,捜査の必要性に対し,人権の保護のために,かなり踏み込んだ判断をするようになってきていると感じます。報道をみていると,「捜査の現場をなにもわかっていない」という声もあるようですが,必要だから適法だという論法では,許容性の議論がかけています。最高裁も,必要性を否定しているわけではなく,「(令状という)やり方についてもっとよく考えてね」というメッセージを発しているに過ぎないので,むしろ立法府に,現場に対する理解を求めつつも,適切な「やり方」を考えるように求めてほしいと思いました。

この判決を勝ち取ったのが,登録後10年未満の若手弁護団だというのも,勇気づけられるところです。結局,被告人の無罪を勝ち取れなかった点は残念だと思いますが,少なくとも捜査法上の問題点に大きな一石を投じることができた点は,非常に意義があることと思います。私も,日々,小さな石でもいいので,一石を投じ続けていきたいと思いました。