私(西村幸太郎)の一連のブログ記事です。私がどういう人間なのか、どういう活動をしているのか、どんなことを考えているのか、どんな知識やスキルを持っているのか、信頼に足る弁護士か、などなど、たくさんの疑問をお持ちの方もおられると思います。そのような方々は、是非こちらの記事を御覧ください。

育徳館高校 消費者被害出前授業

令和2年2月14日,福岡県立育徳館高校にて,消費者被害に関する出前授業を行ってまいりました。

いま,令和元年度巣立ち応援事業が実施されています。2020年4月1日から成人年齢が20歳から18歳に引き下げられることを1つの契機として,高校生が自立した消費者になるために必要な知識や,悪質商法などのトラブルへの対応方法を身に付けるために,実践的な消費者教育講座を実施しています。

時間が限られていますので(高校生の授業は1コマ50分。紹介とか教員コメントとかいろいろやっていると,実質話す時間は40分くらい。),講座で伝えたい内容をしぼって,契約とはどういうものか→未成年の場合どのような保護があるのか→成人したら自衛しないと→もし被害に遭ったらどうする→どんなところに相談したらよいか,というようなことをお話ししました。冒頭,契約内容に争いがある実際の事件の経験をお話しすると,比較的真剣に聞いていただいたような気がしました。不当請求事案(ワンクリック詐欺)などの話も興味をもっていただけたようです。未成年者取消しの一般的知識,動画再生も含めたマルチ商法の例,クーリングオフの概要などを説明の上,社会人になるということが,自由とともに責任も伴う,みなが認識している以上に重大な変化であることをお話ししてしめくくりました。

消費生活センターや法テラスの宣伝も忘れずに。

今回のお話が,少しでも生徒の今後の生活の糧になっていただければ幸いです。

なお,弁護士の仕事に興味がある人は,ぜひ事務所の見学にお越しください!

「押し買い」で宝石を失った

平成30年12月12日の西日本新聞に,私が書いた記事が掲載されていますので紹介します。コラム・ほう!な話です。

国民生活センターの最近の被害の情報を意識して,いまだ被害のある訪問購入について記事にしてみたものです。以前,訪問販売についても記事を書き,私も事件・訴訟で取り扱ったことがありますが,クーリングオフは無理由解除できる点で非常にすぐれた制度ですから,ぜひご活用いただければと思います。

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「押し買い」で宝石を失った

 Q 1人暮らしの祖母が、「不要品を買い取る」と言って訪問してきた業者に、形見として大切にしていた宝石や貴金属を5万円で買い取られました。翌日、祖母が業者に電話し、宝石を返してと訴えましたが「もう遅い。クーリングオフはできない」と言われました。宝石を取り戻せませんか。

A 「押し買い」とも呼ばれる訪問購入の事案です。1人暮らしの女性や高齢者を中心に、考える余裕を与えず、高価なものが買い取られる被害が多発し、特定商取引法が改正され規制対象になりました。

 買い取る際、業者は業者名や物品の種類、特徴、価格などを記した書面を交付しなければいけません。消費者は書面を渡された日から8日以内であれば、クーリングオフで契約を解除して物品を取り戻すことができます。「クーリングオフはできない」などと事実と異なることを告げられたり、すごまれたりして、クーリングオフを妨害された場合は、8日を過ぎても可能です。

 ご相談のケースは、そもそも書面を受け取っていないようですから、クーリングオフができるでしょう。仮に書面を受け取っていても、法律上細かく決められた事柄が全て記されていないなど、書面に不備がある場合もクーリングオフが可能です。正しい書面を受け取っていたとしても、「クーリングオフはできない」とうそを言っているので、やはり可能です。

 各地の消費生活センターや弁護士会などにも相談して対応を考えましょう。(西村幸太郎)

リフォーム工事トラブル

判断能力の乏しい高齢者等を対象として,訪問販売により執拗な勧誘を行い,不安をあおる言動や虚偽説明によって,必要のないリフォーム工事契約を締結させること等を特徴とする商法が,近年増加傾向にあります。

判断能力の乏しい高齢者,周囲にすぐに相談できる家族がいない一人暮らしの高齢者等を相手にするという特徴があります。さらに,不安をあおって強引に契約を締結させようとすることから,消費者側において,工事の必要性や契約内容を吟味せず,十分に理解できないままに契約をさせられてしまうこともあります。虚偽説明,詐欺的な勧誘等にも気を付けなければなりません。

その他,工事代金が不当に高額なケース,業者の技量不足や怠慢により極めて杜撰な工事しか行われないケースも多いです。

こうした消費者被害について,見守りなどによる予防の大切さは言うまでもありませんが,今回は,事後的に,どのような救済があり得るかを考えてみます。

まず,契約を解消することにより,代金を取り戻すなどして,救済を図る方向性があり得ます。特商法9条により,クーリングオフを検討します。訪問販売の場合,法定書面の交付から8日以内であれば,クーリングオフができます。法定書面が交付されているか,書面に不備がないかをしっかりチェックします。悪質な業者は,中途半端な書面を交付するのみで,法定事項をきちんと書いていないときもありますので,諦めずに検討します。

また,このような事案では,不実告知が認められることも多いですので,消費者契約法による取消しも検討できます。特商法9条の3による取消しも検討できます。

民法の意思表示規定に基づく取消し・無効,すなわち,詐欺取消し・錯誤無効も検討できるかもしれません(民法95条,96条)。

あまりに工事代金が高額である場合,暴利行為として,公序良俗違反の構成も検討してみましょう(民法90条)。

一連の勧誘行為が詐欺的だと評価できる場合,消費者が,業者に対し,不法行為に基づく損害賠償ができないか,検討の余地があります(民法709条)。

業者の工事が杜撰だという場合,債務不履行責任(民法415条)又は不法行為に基づく損害賠償責任を検討します。ただし,工事が一応の完成をしている場合,請負人の瑕疵担保責任(民法634条)の追及となる場合もあります。建物自体の損傷や,雨漏りの発生やその効果として損害が広がった場合などが例として挙げられます。

さまざまな法律構成が考えられるため,対処ができないわけではないですが,勝訴可能性とは別に,回収可能性も考慮しなければならないのが,消費者被害の難しいところです。弁護士費用の負担も考えると,ペイしない事案などは,やはり悩ましいですね。

そのような事態が避けられるよう,ひるがえって,法教育の浸透,地域ぐるみの見守りなどで,事前に予防ができるようになると,よいですね。

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特定商取引法

(訪問販売における契約の申込みの撤回等)

第9条 販売業者若しくは役務提供事業者が営業所等以外の場所において商品若しくは特定権利若しくは役務につき売買契約若しくは役務提供契約の申込みを受けた場合若しくは販売業者若しくは役務提供事業者が営業所等において特定顧客から商品若しくは特定権利若しくは役務につき売買契約若しくは役務提供契約の申込みを受けた場合におけるその申込みをした者又は販売業者若しくは役務提供事業者が営業所等以外の場所において商品若しくは特定権利若しくは役務につき売買契約若しくは役務提供契約を締結した場合(営業所等において申込みを受け、営業所等以外の場所において売買契約又は役務提供契約を締結した場合を除く。)若しくは販売業者若しくは役務提供事業者が営業所等において特定顧客と商品若しくは特定権利若しくは役務につき売買契約若しくは役務提供契約を締結した場合におけるその購入者若しくは役務の提供を受ける者(以下この条から第九条の三までにおいて「申込者等」という。)は、書面によりその売買契約若しくは役務提供契約の申込みの撤回又はその売買契約若しくは役務提供契約の解除(以下この条において「申込みの撤回等」という。)を行うことができる。ただし、申込者等が第五条の書面を受領した日(その日前に第四条の書面を受領した場合にあつては、その書面を受領した日)から起算して八日を経過した場合(申込者等が、販売業者若しくは役務提供事業者が第六条第一項の規定に違反して申込みの撤回等に関する事項につき不実のことを告げる行為をしたことにより当該告げられた内容が事実であるとの誤認をし、又は販売業者若しくは役務提供事業者が同条第三項の規定に違反して威迫したことにより困惑し、これらによつて当該期間を経過するまでに申込みの撤回等を行わなかつた場合には、当該申込者等が、当該販売業者又は当該役務提供事業者が主務省令で定めるところにより当該売買契約又は当該役務提供契約の申込みの撤回等を行うことができる旨を記載して交付した書面を受領した日から起算して八日を経過した場合)においては、この限りでない

2 申込みの撤回等は、当該申込みの撤回等に係る書面を発した時に、その効力を生ずる。

3 申込みの撤回等があつた場合においては、販売業者又は役務提供事業者は、その申込みの撤回等に伴う損害賠償又は違約金の支払を請求することができない。

4 申込みの撤回等があつた場合において、その売買契約に係る商品の引渡し又は権利の移転が既にされているときは、その引取り又は返還に要する費用は、販売業者の負担とする。

5 販売業者又は役務提供事業者は、商品若しくは特定権利の売買契約又は役務提供契約につき申込みの撤回等があつた場合には、既に当該売買契約に基づき引き渡された商品が使用され若しくは当該権利が行使され又は当該役務提供契約に基づき役務が提供されたときにおいても、申込者等に対し、当該商品の使用により得られた利益若しくは当該権利の行使により得られた利益に相当する金銭又は当該役務提供契約に係る役務の対価その他の金銭の支払を請求することができない。

6 役務提供事業者は、役務提供契約につき申込みの撤回等があつた場合において、当該役務提供契約に関連して金銭を受領しているときは、申込者等に対し、速やかに、これを返還しなければならない

7 役務提供契約又は特定権利の売買契約の申込者等は、その役務提供契約又は売買契約につき申込みの撤回等を行つた場合において、当該役務提供契約又は当該特定権利に係る役務の提供に伴い申込者等の土地又は建物その他の工作物の現状が変更されたときは、当該役務提供事業者又は当該特定権利の販売業者に対し、その原状回復に必要な措置を無償で講ずることを請求することができる

8 前各項の規定に反する特約で申込者等に不利なものは、無効とする。

第9条の3 申込者等は、販売業者又は役務提供事業者が訪問販売に係る売買契約又は役務提供契約の締結について勧誘をするに際し次の各号に掲げる行為をしたことにより、当該各号に定める誤認をし、それによつて当該売買契約若しくは当該役務提供契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。

一 第六条第一項の規定に違反して不実のことを告げる行為 当該告げられた内容が事実であるとの誤認

二 第六条第二項の規定に違反して故意に事実を告げない行為 当該事実が存在しないとの誤認

2 前項の規定による訪問販売に係る売買契約若しくは役務提供契約の申込み又はその承諾の意思表示の取消しは、これをもつて善意の第三者に対抗することができない。

3 第一項の規定は、同項に規定する訪問販売に係る売買契約若しくは役務提供契約の申込み又はその承諾の意思表示に対する民法(明治二十九年法律第八十九号)第九十六条の規定の適用を妨げるものと解してはならない。

4 第一項の規定による取消権は、追認をすることができる時から一年間行わないときは、時効によつて消滅する。当該売買契約又は当該役務提供契約の締結の時から五年を経過したときも、同様とする

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消費者契約法

(消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示の取消し)

第4条 消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対して次の各号に掲げる行為をしたことにより当該各号に定める誤認をし、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。

一 重要事項について事実と異なることを告げること

 当該告げられた内容が事実であるとの誤認

二 物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものに関し、将来におけるその価額、将来において当該消費者が受け取るべき金額その他の将来における変動が不確実な事項につき断定的判断を提供****すること

 当該提供された断定的判断の内容が確実であるとの誤認

2 消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対してある重要事項又は当該重要事項に関連する事項について当該消費者の利益となる旨を告げ、かつ、当該重要事項について当該消費者の不利益となる事実(当該告知により当該事実が存在しないと消費者が通常考えるべきものに限る。)を故意に告げなかったことにより、当該事実が存在しないとの誤認をし、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。ただし、当該事業者が当該消費者に対し当該事実を告げようとしたにもかかわらず、当該消費者がこれを拒んだときは、この限りでない。

3 消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対して次に掲げる行為をしたことにより困惑し、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。

一 当該事業者に対し、当該消費者が、その住居又はその業務を行っている場所から退去すべき旨の意思を示したにもかかわらず、それらの場所から退去しないこと。

二 当該事業者が当該消費者契約の締結について勧誘をしている場所から当該消費者が退去する旨の意思を示したにもかかわらず、その場所から当該消費者を退去させないこと。

4 消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものの分量、回数又は期間(以下この項において「分量等」という。)が当該消費者にとっての通常の分量等(消費者契約の目的となるものの内容及び取引条件並びに事業者がその締結について勧誘をする際の消費者の生活の状況及びこれについての当該消費者の認識に照らして当該消費者契約の目的となるものの分量等として通常想定される分量等をいう。以下この項において同じ。)を著しく超えるものであることを知っていた場合において、その勧誘により当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、消費者が既に当該消費者契約の目的となるものと同種のものを目的とする消費者契約(以下この項において「同種契約」という。)を締結し、当該同種契約の目的となるものの分量等と当該消費者契約の目的となるものの分量等とを合算した分量等が当該消費者にとっての通常の分量等を著しく超えるものであることを知っていた場合において、その勧誘により当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときも、同様とする。

5 第一項第一号及び第二項の「重要事項」とは、消費者契約に係る次に掲げる事項(同項の場合にあっては、第三号に掲げるものを除く。)をいう。

一 物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものの質、用途その他の内容であって、消費者の当該消費者契約を締結するか否かについての判断に通常影響を及ぼすべきもの

二 物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものの対価その他の取引条件であって、消費者の当該消費者契約を締結するか否かについての判断に通常影響を及ぼすべきもの

三 前二号に掲げるもののほか、物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものが当該消費者の生命、身体、財産その他の重要な利益についての損害又は危険を回避するために通常必要であると判断される事情

6 第一項から第四項までの規定による消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示の取消しは、これをもって善意の第三者に対抗することができない。

高齢者の消費者被害防止講演会について(@香椎)

平成30年10月29日,香椎下原公民館にて,民生委員や福祉施設職員向けに,高齢者の消費者被害防止講演会を行いました。各地で行っており,私も何度も担当させていただいております。

事前予防の重要性,アンテナが張れるような知識の習得や,事後的な対応としてクーリングオフなどの知識を習得できることを目指しました。

同講演会のなかで,福岡県警察による,最近の被害の手口についても,紹介をいただきました。最近は,百貨店や警察を語るオレオレ詐欺が多発中なのだそうです。

Aさんの自宅に,有名百貨店を騙る電話が。

「●●百貨店ですが,本日,キャッシュカードを使って,宝石を購入しませんでしたか?」「覚えがないようでしたら,不正利用かもしれませんので,警察に連絡をいたしますね。」

  ↓

電話が切れた直後,さらに,警察を騙る電話が。

「●●署の者ですが,あなたのカードが偽造されて,犯人が宝石を購入したようです。」「口座保護のために,残高いや暗証番号を教えてください。」

Aさんは,慌てて教えてしまいます。

  ↓

ニセ警察官は,「そのカードは使えないので預かりますね。」「ご自宅に警察官を派遣しますね。」などと告げ,電話中に代理人をAさんの自宅に寄越し,これを信じてしまったAさんは,ニセ警察官に,カードを渡してしまったのです。

…というのが,最近の手口なんだそうです。

警察官が,電話で口座番号や暗証番号を聞くことはありませんし,他人にキャッシュカードや通帳を渡してはいけませんね。また,ニセ電話詐欺被害防止機器(家電量販店で購入可能)の購入を検討しましょう。「この電話は,被害防止のため,録音しています。」とアナウンスが流れ,実際に,録音をするようになって,被害防止をしてくれるそうです。

みなさま,消費者被害には気を付けましょう。

講演会の写真を撮り損ねたので,今回は,文章のみで失礼いたします。

近時の消費者問題雑感③

消費生活相談員との勉強会を終えての雑感③です。

③業務提供誘引販売取引

仕事を提供して収入が得られることを誘引文句に,その仕事をするために必要だとして商品や役務を販売するというもの。楽して儲けれるなら…とか,いますぐお金が手に入るなら…とか,消費者心理に付け込んで,利得を得ようとする商法です。(消費者に対しても,安易に乗っからないように法教育の必要性はあると思います。)。内職商法やモニター商法がその典型です。

特商法は,これに当たる場合,概要書面・契約書面をそれぞれ交付するべきこと,クーリングオフができること,クレジットを利用した場合は,業務の提供に関する債務不履行を理由にクレジット会社への支払拒絶の抗弁が主張できる(抗弁の接続)などの定めをしています。

「収入が得られますよ」とのうたい文句で,収入が得られるようななんらかの仕事の記載もないようなマニュアルを提供しているようなケースもあるようで,そのような場合は,もしかしたら,不実告知,詐欺などといった構成で,契約を取り消すという方が,実態にあっているかもしれません。

いずれにせよ,消費者側の自衛策としては,安易に儲かる手段などないと自覚して甘言に惑わされないようにすること,いざ業務提供誘引販売取引に引っかかってしまう場合にはひとまず早急にクーリングオフを検討するなどすべきということを押さえておけばよいかと思います。

近時の消費者問題雑感②

消費生活相談員との勉強会を終えての雑感②です。

②高齢者への与信,高齢者と過量販売

体の力が低下した方については,たとえばヘルパーさん等がその低下した部分を補って助けてくれます。判断能力が低下した方については,財産管理ができないとなれば,後見人が選ばれ,その方が財産管理してくれるというのが,法制度のタテマエになっています。

取引,契約には,それをするだけの能力=意思能力が必要ですが,これがない状態でした取引は無効です。ただ,取引ごとに,意思能力の有無を個別に判断するのは難しく煩雑でもあるので,判断能力がなくなったとされる場合には後見人を選任し,逆に言うと後見人がついている状態であれば本人は意思無能力状態なのだなとわかるようになります。ところが,本来意思無能力だったとしても,後見人がついていないと,外から見ても,本人が判断能力がある状態なのかどうかはわかりません。年齢が上がってきたというだけでクレジットを利用できるだけの能力がないとはされませんから,後見人がついてない事案では,よっぽど意思能力を疑う徴表がない限り,意思能力はあるものとして,支払能力の有無で与信判断してしまうのでしょう。「クレジット会社は,なんでこの人の審査を通したんだ。」と言いたくなるような事案もあるかもしれませんが,このような構造になっているものと思います。

こうして,支払いができる高齢者の方が,業者のすすめに応じ,必要以上に健康食品や布団などを購入してしまうというトラブルがあります。過量販売の問題です。

次々にいろいろな物を売りつけて被害が拡大するような類型を次々販売などと言ったりしますが,こうして不必要にたくさんの買い物をしてしまったというケースへの対処のため,「分量」という客観的な指標を根拠に,特商法に取消制度が導入されています(法9条の2過量販売解除制度)。

消費者にとって「その日常生活において通常必要とされる分量を著しく超える商品・権利・役務」に関する契約を対象とし,これにあてはまれば,契約を解除することができます(クーリングオフの規定が準用されるため,同様の効果が得られます。)。この「分量」に関しては,①1回の契約で過量の場合,②当該契約により過量になる場合,③すでに従前の契約で過量になっている場合,がありますが,業者が複数関与し,②③の形で過量になっていると思われるときは,業者の認識が問題になります。

業者が,「以前うかがった〇〇さんから紹介を受けました」などといって訪問してきたケースなどは,すでにある程度購入していることを知りながらセールスしていることになるので,②③の過量の認識はあるといいやすいかもしれません。また,狭い家の場合,玄関からたくさんの段ボールが見えているような状況があれば,過量の認識も認めやすいといえます。

いずれにせよ,複数業者がからむ過量販売については,業者の認識が問題になり,難しい問題を含みます。

このような次々販売,過量販売の被害に遭われている方は,ある程度悪質業者からターゲットにされている可能性がありますし,自衛できるだけの判断能力がなくなっているということであれば,後見等制度を利用して,専門家第三者にブロックしてもらうということも検討すべきと思われます。

近時の消費者問題雑感①

平成29年度消費生活相談員等事例検討会に参加してきましたので,近時の消費者問題について,何回かにわけて,いくつかメモしておきます。

①自社割賦の問題

第三者である信販会社を利用して,クレジットで買い物する人は多くいます。この場合,クレジット業者には,支払見込額の調査の義務があったり,クレジット業者の苦情処理義務があったりするなど,割賦販売法などによりさまざまな規制がかかります。

一方,最近は,自社割賦が増えているように感じられるそうです。自社割賦というのは,商品を販売するその業者が割賦を組むことです。これを利用する業者側のメリットとしては,顧客と直接契約することで,第三者の信販会社を利用するより柔軟な契約ができ,機会ロスを防ぐことができること,これまで信販会社に支払っていた手数料を自分のものにできること,などのメリットがあります。顧客からしても,煩雑な信販会社の手続・審査を経なくてよいし,信販会社の審査が通らないようなケースでも業者との直接交渉で割賦にしうるなど,メリットがないわけではありません。ただ,業者は,割賦にすることで,代金回収不能のリスクを抱えることになりますから,手数料が高額になりかねないですし,そのことを明確に告げないなどして,トラブルが生じえます。

割賦販売法改正により個別クレジットの規制は強化されましたが,自社割賦の場合は業者自身が回収不能リスクを負担するという性質上,強い規制になじまないところがあり,現在,個別クレジットほどの規制はありません。実際,規制が強化されていない背景として,トラブルの数もそれほど多くないという認識があったようです。しかし,トラブル例が存在する以上,事前にどうやって法教育を浸透させるか,事後にトラブルになったらどう解決するか,を検討していく必要がありますね。

携帯電話の売買をめぐって

本日,平成29年6月28日の西日本新聞のコラム「ほう!」な話は,消費者委員会枠です。消費者の身近な携帯電話の売買をめぐる法律知識について,改正電気通信事業法の知識も交えながら,解説しています。少し時間は経過しましたが,改正法に関する話でもあり,知っていて損はないのかなと思います。ぜひご一読ください。(もちろん,私が執筆したものです。)

~新聞記事より~

Q 電話で「もう1台携帯を持って,使い分けてはいかがですか」と勧誘され,スマートフォン本体を購入しました。その後,家の近くの店で,スマホで通話できるよう契約を結んだのですがよく考えると,2台も必要ないことに気づきました。解約はできますか。

A 相談者の場合①電話機本体の売買契約②電話機を利用するための電気通信サービス提供契約-の2つの契約を事業者と結んでいます。  ①は電話勧誘販売ですので「クーリングオフ」(特定商取引法)を検討しましょう。契約書などの法定書面の交付を受けた日から8日以内であれば,理由なく契約を解除できます。  ②は勧誘によらず,相談者が店頭で契約しているのでクーリングオフは適用されません。しかし携帯電話の通信サービスなどについては利用者保護のため法律が改正され,一定の場合は解除できるようになりました。 利用者は,法定書面を受け取った日(サービスの提供がそれより遅いときはサービス開始日)から8日間は,理由なく契約を解除できます。ただし解除までの間通話などしていた場合は通話料などの費用は負担する必要があります。この点,支払った金額が原則すべて返金されるクーリングオフとは違い「初期契約解除」制度(電気通信事業法)と呼ばれています。  手続は,いずれも書面でする必要があります。配達証明付内容証明郵便がお勧めです。

~新聞記事より~

高齢者の消費者被害に関する講演会@志免町

平成29年4月20日,@志免町町民センターにて,高齢者の消費者被害に関し,講演を行いました。民生委員30~40名を対象に,高齢者の権利擁護の講演に引き続き,私が,消費者問題についての講演を担当させていただきましたが,みなさんびっくりするほど熱心に聴講していただき,盛況のうちに終えることができたと思います。

講演中,いろいろと「気づき」を得るためのポイント(「高齢の方にまつわるお困りごと」の3つの目のQを参照)をお話しさせていただきましたが,民生委員からは,「民生委員は,普段,家のなかまでは入らないようにという指導を受けている。次回からは,そのあたりも踏まえた指摘をいただきたい。」という趣旨のコメントもいただき,次回の課題を見つけることもできました。いろいろとご指摘をいただけたのは,それだけ熱心に聴講していただいていたのだなということだと思いますので,とてもうれしいことだなと思いました。

内容としては,①消費者被害における「見守り」の重要性,②消費者被害に「気付く」兆候・ポイント,③事後的対応で知っておいて損はない!~クーリング・オフ~の3つを中心にお話ししましたが,その他細かな法制度の紹介なども交えて,内容は濃いものになっていたと思います。講演は,なにをどうやって持ち帰っていただくかにいつも頭を悩ませていますが,ぜひとも,この講演を,これからの「見守り」活動に,役立てていただければ,こんなにうれしいことはないなあと思います。 enter image description here enter image description here enter image description here enter image description here enter image description here enter image description here

還付金詐欺について

なんとなく今日の西日本新聞を見ていたら,「還付金詐欺 知ってたのに」という記事が目に飛び込んできました。

記事によると,「返金」といわれ,還付金詐欺が思い浮かばなかった,「返金は今日が締め切り」と言われた,ATMの操作をしたことがなく,言われるがままに操作したら,振り込みをしていた,明細をみて初めて気が付いた,「自分は絶対引っ掛からないと思っていた」…などと記載があります。アナウンサーのような落ち着いた口調で話され信用したなどといった例も記載がありました。

このような詐欺は許せません。虎の子の老後資金だったと思われるのに,これを平気でだまし取るというのは,大変悪質です。こうした詐欺を撲滅するためにも,「どうして騙されてしまうのか?」を知っておくのは,大変有意義だと思います。

少し前,「マンガでわかる!高齢者詐欺対策マニュアル」という本が出ました。タイトルのとおり,マンガで事例紹介があり,わかりやすく構成されていながら,騙される心理を,心理学的にも検討してみるといった形で,内容の濃い本になっています。ぜひ一度お読みいただければと思います。

たとえば,この本では,「自分は大丈夫」がいちばん危ない!と指摘しています。人間は,自分にとって都合の悪いことは無視したり,過小評価したりする,「正常性バイアス」がある。さらに,いったん思い込むと,都合のよい情報だけを集めてしまう確証バイアスというものがある。みなさん,基本的に,社会の人はいい人と思いたいという心理もあり,犯罪グループ等は,そこをついてくるというのです。経験豊富な高齢者(特に女性)こそが,犯罪グループ等の考える,(経験したこともないような)新しい手法に引っかかりやすいなどといったことも指摘されています。「今日まで」といった時間的制約で,正常な判断能力を奪おうとするのも,常套的な手段です。人間には,急がされてあせっているときは,問題に役立つ情報を選んで,きちんと判断するのではなく,パッと思い浮かびやすい,「新しい記憶」を取り出して使おうとするという「ヒューリスティック」という傾向があることなども指摘されており,大変参考になります。

決して,騙される方に,なにか落ち度があるわけではありません。悪いのは,だます方です。それでも,これだけ被害がなくならない状況では,知識をもって,常に警戒しておく必要があると思います。著者も,だましは「いつかくる」ではなく「きっとくる」と思って対処すべしとしています。

私は,たびたび,高齢者の消費者被害の講演を行っていますが,少しでも多くの人が,被害を防止するためのお手伝いができればと思います。