私(西村幸太郎)の一連のブログ記事です。私がどういう人間なのか、どういう活動をしているのか、どんなことを考えているのか、どんな知識やスキルを持っているのか、信頼に足る弁護士か、などなど、たくさんの疑問をお持ちの方もおられると思います。そのような方々は、是非こちらの記事を御覧ください。

ホワイトボードを設置しました

当事務所の相談室に,ホワイトボードを設置しました。 相談時,ホワイトボードを活用し,視覚的に説明が可能になるというだけでなく,多人数が集まって勉強会などをする際にも,活用できるのではないかと思っています。 当事務所は,これからも,地域の方に利用していただきやすいよう,創意工夫をこらしてまいります。

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「知ろう!考えよう!障害のこと」

平成29年2月3日(金)18:30~20:30,@北九州市立商工貿易会館,「知ろう!考えよう!障害のこと」に参加しました。

内容は,2部構成。第1部は,基調講演として,毎日新聞社論説委員野澤和弘氏による,「障害と障害者差別解消法~障害のある人もない人も暮らしやすい街に~」というお話をいただきました。第2部は,野澤氏がとりまとめる東京大学の自主ゼミ「障害者のリアルに迫る」東大ゼミ生のお2人と野澤氏の対談が行われました。

とても内容の濃い2時間でしたが,私が印象に残ったのは,とにかく,最後の質疑応答でした。質問者から,「結局,障害とはなんだと考えているか。」という質問がありました。自らも精神障害当事者であると語る女子学生の回答は,以下のとおりです。

私が,障害とは何かという問いに答えるとき,いつも,2つの回答を用意している。 1つ目は,障害は「グラデーション」であるということ。健常者と障害者,2つはまるで別のもののように語られる。国の政策上,なにをどこまで,税金を投じて法的に支援するか,線引きが必要ということはわかる。でも,本来,2つははっきり区別できないもののはずだ。人は,生きていれば,それぞれ,生きづらさを感じているもの。生きづらさの大きさに違いがあったり,種類に違いがあったり,ある特定の観点で,生きづらさが大きいと判断されている者を,障害者と呼んでいるに過ぎない。障害というのは,本来,境界のある別のものではなく,連続性のあるグラデーションなのだ。2つ目は,障害は「物語」であるということ。障害を「個性」という形で論じる向きがあるが,私は,そのような呼び方は好きではない。個性というと,なんだか自分の力で変えられるようなニュアンスが感じられる。ネーミングを前向きなものにすればよいという問題ではない。むしろ,障害は,「物語」というべき。ある人は,足が動かないという物語の上を歩んでいる。ある人は,心になんだか生き苦しさを感じているという物語の上を歩んでいる。人それぞれ,障害をもつ人もそうでない人も,それぞれの物語を歩んでいるに過ぎない。

なんとも,考えさせられるコメントでした。みなさま,いかがお感じになられるでしょうか。

法律のブログなので,少し,障害者差別解消法に関しても補足しておきたいと思います。この法律は,障害者に対する差別的取扱を禁止するとともに,行政や事業主に合理的配慮を求めるという特徴があります。ただ,合理的配慮も,事業主に過度な負担を求めるのはいけないということになっています。しかし,これには続きがあり,「障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針」では,さらに,合理的配慮について「義務」とまではいえない場合も,「建設的対話」による解決を図るようつとめるべきという趣旨のことが記載されています。

1つ例を挙げます。学校で,体の悪い障害の方が,電気のスイッチが高すぎて届かない,全部スイッチの場所を下げてくれと要求したとします。しかし,これを全部やろうとすると,莫大なお金がかかってしまいます。学校に過度な負担を課すことになるので,合理的配慮として工事する「義務」までは課されなさそうです。しかし,学校は,その人の言いたいことはわかったということで,教職員や学生等に周知徹底をしたそうです。すると,その人にとって,とても望ましい方向で解決ができるようになりました。なぜなら,その人は,スイッチのことだけで困っていたわけではないからです。その人がスイッチを押せずに困っていれば,気づいた人が助けてあげられるし,図書館で高いところの本が取れなければ,気づいた人が助けてあげられる。工事をするだけであれば,莫大なお金を投じても,スイッチの件以外は解決しなかったでしょう。このように,「建設的対話」が,差別解消法の理念を実現する上で,とても重要になってきます。

野澤氏は,このようなお話をしており,なるほどと思ったところでした。

ここで登場した「障害者のリアルに迫る」東大ゼミ 著・野澤和弘編著「障害者のリアル×東大生のリアル」も購入。生の障害者に触れた東大生の生の声が,それこそ生生しく記されており,大変勉強になりました。おすすめの1冊です。

障害者分野は,私の,おおいに関心をもっている分野です。これからも学び続けていこうと思います。

表現の自由とプライバシー権(投稿記事削除仮処分最高裁決定)

憲法上,表現の自由は,とても重要な権利として強い保護の対象とされており,昔から多くの議論を呼んでいます。同じく憲法上の権利であるプライバシー権についても,昔からさまざな議論があります。両者の調整が問題となる事案について,平成29年1月31日,最高裁が判断を示しましたので,ご紹介いたします。

本件は,逮捕事実につき電子掲示板に多数書き込まれた者が,グーグルに対し,逮捕歴に関する期日の検索結果の削除をするように求め,投稿記事削除仮処分を申し立てた事件です。

犯罪事実に属する事実は,その性質上,プライバシーのなかでも,比較的強い法的保護を受ける対象になると思いますが,一方,インターネット上の情報の流通に関しては,表現として保護を受けるのではないかと考えられるため,両者の調整が問題となります。

判例は,検索事業者が,「インターネット上のウェブサイトに掲載されている情報を整理し,利用者から示された一定の条件い対応する情報を同索引に基づいて検索結果として提供するものであるが,この情報の収集,整理及び提供はプログラムにより自動的に行われるものの,同プログラムは検索結果の提供に関する検索事業者の方針に沿った結果を得ることができるように作成されたものである」から,「検索結果の提供」は「表現行為」という側面を有すると指摘します。検索結果を表示するのは,検索事業者側の方針で情報の選別をして,順位付けをして,それを表示するのですから,たとえば新聞で数あるニュースの中からニュースバリューがあるものを選んで配置し読者に提供するのと似たような行為であって,(この例と同様の保護が与えられるかはともかく,)表現行為の側面は認められるということだと思います。

判例は,さらに,検索結果の提供が,公衆によるインターネット上の情報発信,情報取得に寄与しており,情報流通の基盤として大きな役割を果たしているといいます。判文からは,検索結果の提供というインフラ,情報流通の装置そのものに憲法上の保護が与えられるかどうかは判然としません。御幣があるかもしれませんが,情報流通という一種の制度的保障,客観保障(主観的権利ではなく,制度そのものを保障することで権利の核心を保障する)をしているとまで読み込めるかは,ひとつ検討の価値があるトピックではないかと思います。素直に読む限りでは,制度・装置(インフラ)そのものに憲法21条1項の保護が与えられるとまでは読み込めず,検索結果提供行為(表現行為)の重要性を基礎づけるものとして論証されているということだと思いますが,そのあとに,「検索結果の提供を通じて果たされている上記役割に対する制約」という記述も認められ,さきに述べたインフラへにつき憲法上の権利への制約が認められると読み込むことはできないのかな,とも思っているところです(「役割」への「制約」なので,権利の制約と読むのは無理があるでしょうかね。)。

判例は,プライバシーに属する事実を含む記事等が掲載されたウェブサイトのURL等情報を検索結果の一部として提供する行為(表現行為)が違法になるかは,①当該事実の性質及び内容,②当該URL等情報が提供されることによってその者のプライバシーに属する事実が伝達される範囲とその者が被る具体的被害の程度,③その者の社会的地位や影響力,④上記記事等の目的や意義,⑤上記記事等が掲載された時の社会的状況とその後の変化,⑥上記記事等において当該事実を記載する必要性など,「当該事実を公表されない法的利益と当該URL等情報を検索結果として提供する理由に関する諸事情とを」「比較考量」「して判断すべきもので,その結果,当該事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合には,検索事業者に対し,当該URL等情報を検索結果から削除することを求めることができる」と指摘します。

基本的には比較考量論ですが,「明らかな場合」といった表現が用いられているように,表現行為の重要性にかんがみ,表現にややウェイトを置いた考量をしているようにみえます。逮捕事実というのは,前科に準じるようなプライバシーの中でも高度に保護されるべき情報だと考えれば,まず,この基準自体が妥当かどうかは,議論があるかもしれません。一方,この裁判を担当した弁護士のコメントでは,公共の内容にかかわる犯罪事実は削除しにくくなったが,うその内容は従来より消しやすくなると考えているそうです。①記事記載の事実の性質や内容が考慮要素に挙げられており,内容虚偽の事実は保護に値するといいづらいでしょうから,このような前向きな捉え方もできるのかもしれません。新聞記事や報道などをみても,どちらかというと前向きな捉え方(報道の仕方)のような印象を受けます。

なお,この裁判は,地裁で「忘れられる権利」に言及されたことで注目を集めました。しかし,最高裁は,いわゆるプライバシー権にネーミングをして権利性を認めることには慎重です。おそらく,プライバシーはピンからキリで,強く保護に値するものからそうでもないものまで,情報の性質によって議論が大きく異なるため,事案に即して権利利益の性質・内容を詳細に検討できるよう,安易にネーミングをしてレッテルを貼らないよう,自粛しているのではないかと考えています。私はそうした発想には賛成であり,最高裁が「忘れられる権利」に触れなかったのはむしろ好ましいことではないかとも思っているところです。本件では「事実を公表されない法的利益」という表現をしており,事案に即した表現をしようとしていることが読み取れます。ただ,この発想で行くと,今回の判例で「プライバシー」という用語が多用されていることは気になります。従来,最高裁はプライバシーという用語を使うのには慎重だと思っていたのですが,それだけこの用語が定着してきたということでしょうかね。

事案の解決としては,本件事実が公表される法的利益が優越することが明らかとはいえないとのこと。感想ですが,罪名が児童買春に関することで,一般に再犯率も低いとはいえず,地域住民の関心事ですので,削除の方向に傾かなかったのかなと思いました。しかし,そういう事実だからこそ知られたくない,立ち直りたいのに仕事に支障が出る,情報伝達範囲は限られているというが,地域住民に知られるのが1番こたえるなどの現実もあるでしょうから,このような考量でよいかは,あらためて議論してみる価値はあるのではないかと思います。憲法学者や実務家の間で,さらなる議論を期待したいと思います。

余談ですが,平成23年の司法試験(憲法)では,いわゆるストリートビューをイメージし,インターネットに関する表現とプライバシー権の調整が問題となるような問題が出題されました。ここでも,情報流通のためのインフラの意義や,インフラから得られる情報の性質などを考えながら,事案に即した検討を求められていたように思います。司法試験に出るくらいの分野ですから,従来より問題意識のあった分野についての最高裁の判断ということで,これから,さまざまな分析・議論が展開されるのではないかと思います。 議論の行方を見守りたいと思います。

節税目的の養子縁組の有効性

私は,何度か,養子縁組無効確認請求訴訟を担当したことがあります(いずれも勝訴)。そのためでしょうか,縁組意思の有無,縁組の有効性といった論点には,関心を寄せています。平成29年1月29日,最高裁で新たな判断が示されましたので,ご紹介します。

相続税の計算において,基礎控除は,3000万円+600万円×法定相続人の数,という計算式で算出されます。ですので,法定相続人が多くなると,基礎控除が大きくなり,節税になります。この点,法定相続人は,配偶者は必ず(民法890条),ほかに第1順位が子(民法887条),という形で定められています。配偶者は重婚が禁止されている(民法732条)ことから,配偶者の数を増やすという方法で,節税はできません。ところが,子は,人工的に親子になる方法(養子縁組)があることから,子の数を人工的に増やして,相続人の数を増やし,基礎控除を増やし,結果,節税をすることができるわけです。

判例の事案では,税理士のアドバイスもあり,節税のために養子縁組をしたところ,そのような縁組では,縁組が有効である要件である「縁組をする意思」(民法802条1号)が認められないのではないか,という点が問題となりました。

判例は,相続税の節税の動機と縁組をする意思とは併存し得るものであり,「専ら相続税の節税のために養子縁組をする場合であっても,直ちに当該養子縁組について民法802条1号にいう『当事者間に縁組をする意思がないとき』に当たるとすることはできない」と判断しています。つまり,節税目的の縁組は有効ということですね。

気になるのは,「専ら」という言葉がついてある点。その後に「前記事実関係の下においては…『当事者間に縁組をする意思がないとき』に当たるとすることはできない。」と書いてあるため,事例判断なのかな?と思ったりもしましたが,「専ら」節税目的でも縁組意思なしという判断なので,縁組の有効性につき節税目的の有無は無関係と読んでよいのでしょう。「前記事実関係の下においては…」のくだりは,その他の可能性を含めても,縁組意思を否定する事情は見当たらないという検討過程を記していると読み取ればよいのかな,と思います。

ところで,新聞を見ていると,国税庁は,課税逃れが明白な縁組では養子分の控除を認めない方針を示しており,今後も維持する方針とのこと。税務の世界では,実体法の考え方と異なる判断をすることがままありますが,税務の世界では,実体法上は縁組が有効(法律上の子であり相続人になる)でも,税務上は子=相続人として扱わず,基礎控除を大きくすることは認めないということになるのでしょうか。税務上の解釈の問題と,そもそもどうやって「課税逃れが明白な縁組」を調査・判断するのかという問題が残されているように思います。

今後も,縁組意思の論点について,考えていきたいと思います。

行政不服審査法関連三法:処分等の求め

地域では,行政に関する相談も多いようです。

先般,行政不服審査法が改正され,それに伴い,行政手続法も一部改正されました。ここでは,行政手続法に新設された,「処分等の求め」について書いてみます。

「処分等の求め」の制度とは,書面で具体的な事実を摘示して一定の処分又は行政指導を求める制度です。

【条文~ここから~】

 第四章の二 処分等の求め
第三十六条の三  何人も、法令に違反する事実がある場合において、その是正のためにされるべき処分又は行政指導(その根拠となる規定が法律に置かれているものに限る。)がされていないと思料するときは、当該処分をする権限を有する行政庁又は当該行政指導をする権限を有する行政機関に対し、その旨を申し出て、当該処分又は行政指導をすることを求めることができる。 2  前項の申出は、次に掲げる事項を記載した申出書を提出してしなければならない。 一  申出をする者の氏名又は名称及び住所又は居所 二  法令に違反する事実の内容 三  当該処分又は行政指導の内容 四  当該処分又は行政指導の根拠となる法令の条項 五  当該処分又は行政指導がされるべきであると思料する理由 六  その他参考となる事項 3  当該行政庁又は行政機関は、第一項の規定による申出があったときは、必要な調査を行い、その結果に基づき必要があると認めるときは、当該処分又は行政指導をしなければならない。

【条文~ここまで~】

違反状態をなおすために処分を行う行政の権限,行政指導を行う行政の権限が,つねに適切に行使されるとは限りません。このような権限を行使するには,違反状態の存在を,行政が,知っていないといけませんが,行政のインフラは限られており,規制の対象が広く追いつかなかったり,そもそも違反事実を認めるのが技術的に簡単ではない場合には,行政のみでは,違反事実にかかる情報を,十分に取得できないということが起こり得ます。その結果,いわゆる,「執行の欠缺」というべき事態(適切な執行が欠けている状態)が生じていました。さらに,たとえ違反事実を知っていたとしても,黙認してしまったり,法律の根拠に基づかない弱弱しい行政指導を繰り返すばかりで,有効な是正策を講じず,違反状態の継続を許してしまう事態が生じないとも限りません。こうした問題意識から,法令違反の事実を把握している者からの申出をきっかけとして,行政が必要な調査をし,その結果,必要があると認めるときに違反事実を是正するための処分又は行政指導をする制度をつくることで,行政手続法の目的である「行政運営における構成の確保と透明性…の向上を図り,もって国民の権利利益の保護」をはかろうとしたというものです。

行政不服審査法ではなく,行政手続法に定められたのは,この「処分等の求め」は,「何人でも」申し出ることができる制度であり,申出人個人の権利利益の侵害を要件とする行政不服審査とは一線を画すると考えられたからです。

非申請型(直接型)義務付訴訟などの制度が整備されていたとはいえ,訴訟要件も本案勝訴要件も厳しい状況でしたから,このような柔軟な制度ができたのは,喜ばしいことではないかと思います。

なお,処分の求めと行政指導の求めは,両方を求めることも可能です。申出人の氏名,住所等の個人情報は,個人情報保護法により,保護されます。

ただ,処分等の求めの制度は,あくまで,職権発動を促す制度と位置付けられているに過ぎません。この点は,再考の余地があると思われます。このあらわれとして,申出人に,申出を受けた調査結果や是正措置について,通知を求める権利を与えてはいません。実務上,通知を行うべきと思いますが,法律上も,明確に書いておくべきだと思います。

以上,簡単でしたが,制度の紹介でした。活用例を積み重ね,行政の良質なサービスの提供につながればよいなと思います。

子の引渡し(人身保護請求)をめぐる問題

弁護士として仕事をしていると,ときに,子どもの親権・監護権や引渡しをめぐり,熾烈な争いをせざるを得ない場合があります。弁護士の本音としては,子どものためには,このような争いもよくないのだけど,相手方のところに子どもがいる状態もよくないから,やむを得ず強制的な手段を選択せざるを得ない,ということも多いようです。今回は,子の引渡しをめぐる問題について,考えてみます。

実務上,子の引渡しを求める手続・方法として,①家事審判(審判前の保全処分含む)(子の監護者の指定,その他子の監護に関する処分としての子の引渡し請求など),②人事訴訟(離婚訴訟等の付帯請求として子の引渡し請求),③人身保護請求,④民事訴訟(親権または監護権に基づく妨害排除請求としての子の引渡し請求(最判昭35・3・15)),⑤刑事手続(子の連れ去りが略取行為と評価できる場合に告訴等による刑事司法の介入を求める)などがあります。

従来は,③人身保護請求がよく使われていたそうですが,最高裁の判例で,この請求の要件を厳格に考える傾向があらわれてから,①家事審判(審判前の保全処分)を活用し,子の監護者指定及び子の引渡しを求める審判(審判前の保全処分)の申立てにより解決を図ろうとするケースが多いようです。

もっとも,③人身保護請求には,①審判前の保全処分にはない,迅速性・容易性・実効性という特徴を有しています。そこで,人身保護請求の要件である,「顕著な違法性」(人身保護規則4条)が認められると判断し,さきにみた迅速性・容易性・実効性の観点から実益があると判断される場合には,なお,人身保護請求を検討する意味があると思います。

具体的に検討してみます。

人身保護請求が認められるための要件は,①子が拘束されていること(拘束性),②拘束が違法であること(違法性),③拘束の違法性が顕著であること(違法の顕著性),④救済の目的を達成するために,他に適切な方法がないこと(補充性)とされています(人身保護規則4条)。

特に,問題になるのは,②③の拘束の違法性が顕著であること,という要件です。

一般的には,子の拘束を開始した経緯に違法行為があり,その違法性の程度等からただちに現在の拘束が権限なしになされていることが明らかであると認められる場合をいいます。

具体的には,判例により,場合わけをして,一定の基準が示されていますので,ご紹介いたします。

共同親権者による拘束の場合,その監護は,特段の事情がない限り,親権に基づく監護として適法と考えられます。そこで,違法性が顕著といえるための要件は,厳格になります。判例によると,共同親権者による拘束に顕著な違法性があるというためには,「拘束者が幼児を監護することが,請求者による監護に比して子の福祉に反することが明白であることを要する」とされています(明白性の要件。最判平5・10・19)。 さらに,明白性の要件に該当する場合を,明確化するものとして,以下の2つの類型が挙げられています。ⅰ)拘束者に対し,子の引渡しを命じる審判や保全処分が出され,その親権行使が実質上制限されているのに,拘束者がこれに従っていない場合(審判等違反類型),ⅱ)請求者のもとでは安定した生活が送れるのに,拘束者のもとでは著しく健康が損なわれたり,満足な義務教育が受けられないなど,拘束者の親権行使として容認できないような例外的な場合(親権濫用類型)。

他方,非親権者・非監護者による拘束の場合は,相手方にはなんら監護の権限なく拘束しているのですから,さきにみたような厳しい要件を課す必要はありません。判例は,さきの共同親権者による拘束の場合とは区別して,非親権者・非監護者による拘束の場合,「幼児を請求者の監護の下に置くことが拘束者の監護の下に置くことに比べて子の幸福の観点から著しく不当なものでない限り,拘束の違法性が顕著である場合(人身保護規則4条)に該当し,監護権者の請求を認容すべきものとするのが相当である」としています。

以上が,人身保護請求が認められる要件です。その他,手続的なところで特徴的なのは,原則として請求者は弁護士を代理人として請求しなければならない(弁護士強制主義)とされていること(人身保護法3条),被拘束者である子に代理人がいない場合,裁判所により選任された国選代理人(人身保護法14条2項,人身保護規則31条2項)が子の訴訟代理や調査活動を行うことになるとされていること,迅速に審理できるような規定がおかれていること(請求は他の事件に優先して行われる,審問期日は,請求のあった日から原則として1週間以内に開く,立証は疎明で足りる,判決の言渡しは審問終結の日から5日以内に行わなければならない,上訴期間は3日以内など)などです。

各ケースにおいて,人身保護請求の要件を満たすか否かも検討しつつ,どういった手段により解決するのが最も適切か,ご依頼者様とともに悩みながら,紛争の解決を図っていきたいと思います。

「いまこそ知りたい!みんなでまなぶ日本国憲法」

明日の自由を守る若手弁護士の会が,「いまこそ知りたい!みんなでまなぶ日本国憲法」という本を出しています。

この本は,全3巻で,憲法の話を,イラストやマンガを多用して,とてもわかりやすく話したものです。「1 立憲主義 国民主権」「2 基本的人権の尊重」「3 平和主義」という形で,社会の教科書にも出てくる3のテーマについて,1テーマ1冊ずつ,解説しています。 私は,学生時代,憲法を勉強するのが好きで,恩師ともいろいろと議論を交わしていました。ニュースで憲法問題がホットな問題として取り上げられる今日この頃ですが,学生のときほどは勉強していないな~と思っていたところ,新しく本が出るということで,購入してみたものです。子ども向けの本だな…と思っていましたが,年表も多用されていたり,新聞記事が貼り付けられていたり,外国の様子が紹介されていたり(タイバンコクの戒厳令,ヘイトスピーチとルワンダ大虐殺など),社会現象を巻き起こした書籍が適宜紹介されていたり(「蟹工船」「ぼくたちは なぜ、学校へ行くのか」など),極めつけは「憲法体操」をラッキィ池田さんが踊っていたり(?!)と,随所に工夫をしながら,とても濃い内容が記されていました。これまできちんと理解できていなかった部分も,わかりやすく解説されていました。大人も一見の価値ありの良書だと思いました。

法教育の機会をいただけた場合,こうした本も参考になると思いましたし,自分の子どもを含めたたくさんのお子さんたちに,読んで聞かせてあげたいなと思いました。

あとは,3巻9000円という値段だけが,どうにかなればいいなと思いました…

みなさま,ぜひ1度目を通してみてください。

インターフォンを設置しました

事務所に,インターフォンを設置しました。そのため,活動時間内においても,基本的には,扉はすべて施錠した状態にさせていただいております。

これまでの状態でも,相談時間の調整などは行っておりましたので,特に不都合は生じておりませんでしたが,さらにご依頼者様のプライバシーを守るため,念のため,設置させていただきました。セキュリティの向上という狙いもあります。ご訪問いただく際,今まで以上に安心していただけるように,配慮させていただいたものです。また,こちらの方で扉を開けて,お客様をお迎えしたいという思いもありました。 一方で,いちいちインターフォンで呼び出しをするのにひと手間かかるようになったというお声もいただきました。お呼び出しいただいた際は,迅速にお迎えにあがるようにしております。インターフォン設置の趣旨は,すでに述べたとおりですので,ご理解とご協力のほど,なにとぞよろしくお願いいたします。

当事務所は,少しでも市民のみなさまがご利用しやすくなるよう,最善を尽くしてまいりますので,どうぞよろしくお願いいたします。

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DVに関して

御幣があるかもしれませんが,地方において,DVの問題は多いと耳にします。都心部でお過ごしの夫婦のうち片方が地方に逃げてきたり,地方の実家に逃げ込んだりする例というのもあるようです。

離婚とセットで論じられることも多いですが,たとえば,離婚は家庭裁判所の管轄であるのに対し,DV保護命令は地方裁判所の管轄であるなど,裁判所でもワンストップの体制はとっておらず,法的には,必ずしも, ,家庭のこととひとくくりにして扱われているとはいえません。しかし,紛争の解決にあたる実務家は,もちろん,生活全般の立て直しなどもにらんで,さまざまな目配りをした上で,全体的な解決の途を探らなければなりません。

法律家として関わりが深いのは,さきに見たDV保護命令の手続でしょう。一般的な解説などは,いろいろな情報が出回ってます(当事務所のHPでもリンクしてますが,内閣府男女共同参画局の「配偶者からの暴力被害者支援情報」のページは,とても参考になります。)。ここでは,制度の解説以前の,DV保護命令を利用するメリットについて考えてみます。

保護命令制度は,配偶者や生活の本拠を同じくする交際相手からの暴力を防止するため,加害者が被害者に接近すること等を裁判所の命令で禁止し,更なる暴力を振るわれることを防いで被害者の安全を図るものです。これが直接的な効果といえるでしょう。

ただ,実際のところ,裁判所が取扱件数としても,DV保護命令の件数は,多くはないそうです。そこまでしなくとも相手方に所在がわからないように別居すればよい,結局は保護命令(裁判所)よりも警察の対応がものをいうのではというところがあるのかもしれません。保護命令の効果は,刑事罰による制裁をちらつかせることであって,どうしても接近等を物理的に封じることまではできないのではという懸念が残るということもあるのかもしれません。そもそも論として,家庭の問題に裁判所という国家機関を介入させて進めるのに,抵抗を感じるということかもしれません。 しかし,場合によっては,むしろ,第三者を介入させることによって,無理矢理解決にもっていかなければ,解決にならないときもあります。怖がっている被害者にとっては,裁判所が手助けしてくれたという安心感を取り戻すことにも,大きな意味があるでしょう。親族にまで手が伸びていれば,それを止める意味もあると思います。警察も,保護命令がある方が,「民事不介入」「事件が起こってからでないと」などといった消極姿勢を封じ,積極的に動きやすくなるでしょう。さらに,離婚の協議/裁判を進める上でも,DV事案において,保護命令が出ているかどうかは,非常に重要になってきます。裁判所は保護命令の有無を確認しますし,保護命令があれば暴力はあったという前提で話が進められます。結果として,事実の存否に関する紛糾を避け,早期の解決に至ることもできるかもしれません。子どもとの面会交流の可否についても,保護命令の存否は,大きく影響するでしょう。

DV保護命令の根拠法であるDV防止法は,2001年成立,2004年・2007年・2013年改正…と成長している法律といえます。日々,現実の被害などに耳を傾け,柔軟に対応し,進化を続けているものともいうことができるでしょう。 これを利用する法律家も,法律家だからといって法律論だけにとらわれず,広い視野をもって,依頼者の全体的な利益を考えながら,一方,プロとして,法的な観点からの道筋立ても怠ることなく,依頼者に寄り添って,活動を続けていきたいと思います。

※DV保護命令については,命令の内容・要件がいろいろと定まっていること(あらかじめ書式をしっかりさせておけば見落としがない),すばやく審理したいという要請があること(見慣れた書式の方が読みやすい)などからか,裁判所としても,裁判所書式で申し立てることを推奨していると聞きました。リンクに裁判所書式もアップしているので,必要がある方はご参照ください。

債権回収の工夫

中小企業のよくある悩みの1つに,「相手方が,なかなかお金を払ってくれない…」というものがあります。この手の悩みは,弁護士としても,悩ましいところがあります。というのも,弁護士は法律にのっとって仕事をするわけですけれども,法的な正攻法によると,以下のように,時間も労力もお金もかかってしまうからです。しかも,債権回収は「はやくやればやるほど回収可能性が上がる,遅れれば遅れるほど回収可能性が低くなる」という経験則があるので,正攻法によると,時間だけがかかって,結局回収ができない…という場合も,少なくないと思います。

【債権回収の正攻法】 ①請求書を送る,②内容証明郵便,③(①②に応じなければ)支払督促・少額訴訟・通常訴訟,④(①~③と併行して,)仮差押え・仮処分による執行財産の保全,⑤(③の相手方の対応に応じて)必要な主張立証,⑥(⑤の相手方の対応と裁判手続の結果に応じて)控訴,⑦(決定や判決が確定したら相手方の対応に応じて)強制執行,⑧(⑦で強制執行が空振りに終われば)さらに強制執行,⑨以後⑧を繰り返す…

では,どんな対応をすればよいか。工夫はいろいろですが,少し紹介させていただきます。

【事前の工夫など】 契約書をつくる。期限の利益喪失条項を盛り込むなど,有事の際の対応を検討しておく。公正証書にする(金銭債権については,いきなり強制執行手続ができるようになるので,面倒な裁判手続を避けられる)。担保(抵当権,質権,連帯保証など)を取る。もちつもたれつでこちらも相手からの債務を負っておき,いざとなったら相殺できる状態を保っておく。時効に気を付ける。時効管理のために準消費貸借契約の締結も考えておく。

【日頃の心がけ】 日頃から債務者の情報に気を付けておく。債務者ファイルを作成し管理する。取引基本契約書→個別契約書→見積書→注文書→注文請書→納品書→受領書→請求書→領収書 その他 などといった,基本的な資料につき,きちんと整理しておく。

たとえば,相手方が,「利益をあげた」という情報を得た場合,「そうすると,債権回収は安心だな」とみるのか,「利益をあげたということは,先行投資でいろいろとお金を使ったりしてるかも。少し気を付けねば」などとみるかで,捉え方がだいぶ異なってくる。情報を多角的に分析する。

【有事の際】 まずは相殺できないか考える。こちらも債務を負っているのであれば,相殺が最も簡単・確実。場合によっては,債権譲渡や債務引受についても検討する。債権譲渡/債務引受と相殺との合わせ技一本という工夫もある。お金で返せないなら代物弁済は検討できないか。相手方が争わなさそうだったら,支払督促でこちらの本気度を伝えつつ,任意の支払いを促し,将来の強制執行も見据えてはどうか。財産があるなら保全を行いつつ正攻法も検討。財産をもってそうなのにのらりくらりやって事業を続けている債務者に対しては,場合によっては,債権者による破産申立て(破産法18条)をちらつかせてプレッシャーをかけることも。いろいろ工夫はするが,犯罪にあたらないようにすることは気を付けないといけない。正当な債権に関する回収でも,やり方が悪いと犯罪になり得る。反社会的勢力の力を借りた回収はNG。あとあと自分の首をしめるだけである。

私は,流動負債を抱えるのが嫌なので,結構すぐに払ってしまうタイプです。債権回収のセオリーからすると,あまりよくないことなんでしょうかね。そうは思いたくないですが,そんなこと言ってるからいざという時に困るんだよと言われることがないよう,祈っています。

以上,簡単な記述に過ぎませんが,参考にされてください。必要があれば,当事務所で,債権回収につき,事前の対策・有事の対応も検討させていただきます。ご相談いただけると幸いです。