私(西村幸太郎)の一連のブログ記事です。私がどういう人間なのか、どういう活動をしているのか、どんなことを考えているのか、どんな知識やスキルを持っているのか、信頼に足る弁護士か、などなど、たくさんの疑問をお持ちの方もおられると思います。そのような方々は、是非こちらの記事を御覧ください。

「企業不祥事を防ぐ」

國廣正著「企業不祥事を防ぐ」

國廣先生の著書は,読みやすく,それでいて内容は深く,本質に迫る話をわかりやすく記載してあるので,非常に勉強させていただいております。

ルールを定め,厳しくし,それを守ることで「コンプライアンスを遵守してる。」。とにかく研修をする。こういった 「面白くない」「やらされてる」コンプライアンスではダメだ。人間の誠実さ,悩み,我慢,勇気…といった,ものがたりのある対応。ストーリーを伴う対応に共感するみながついてくることによって,コンプライアンスが実現できるのではないか。などなど,経験に根差し,大変含蓄のあふれた危機対応を学ぶことができます。

先生の著書は,法律の話,条文の話はほとんど出てきません。しかし,法律を無視しているわけではなく,むしろその趣旨・精神を十分にくみ取りながら,現実に生起する社会問題として体当たりで考え,対応しているところが素晴らしいのだと思います。

しっかり勉強して,豊前地域で危機管理が必要な場合があれば,適切に対応できるようにしていきたいです。

成績不良者の解雇

熾烈な争いに発展しがちな解雇紛争。日本の労働法制は,採用,人事,配転などに会社の広い裁量を認める反面,解雇については厳しき規制していますから,解雇紛争なった場合,翻って予防が必要な場合,会社において慎重に検討しなければなりません。

解雇事由,もっというと動機のなかで最も多いのは,成績不良,つまり「パフォーマンスが悪いので解雇したい」というものだと言われていますが,感覚的には,解雇はとても難しい印象です。以前,労働者からの相談で,会社の解雇はどう考えても無理筋だと思える,成績不良を理由とする解雇があったのですが,会社と直接話をしても,「これだけひどい成績不良なのだから,認められると自信を持っています」と述べて打てあわない対応。しょうがないので提訴も含めて考えようかと思っていた矢先,会社側に代理人が介入して,「あれはどう考えても無理筋な解雇なので,復職してください」という話をいただいたことがありました(本人が既に復職を望まなくなっていたので,そこからも苦労して交渉することになったという続きがあるのですが…)。

おおむね,以下のような事実の立証が必要と言われていますが,まあ難しいんですよね…

1 出来が悪いという事実

 ⑴ 出来が悪いという客観的な記載

 ⑵ これの内容をなす,行動,発言,不作為

 ⑶ その労働者に帰責することができるのか

 ⑷ ある程度の期間を与えているのか

2 教育指導・訓練・叱咤激励したけどだめだったという事実

 ⑸ 漫然,現状を甘受していたのではなく,よくしようと企業側もきちんと頑張った証拠

…ここでいう「出来が悪い」ということ自体が主観的な評価を含むものですから,客観的に立証するのは思いのほか困難です。日本は,恨まれないように,(実際はさておき)あまり評価としては悪いものをつけないという企業文化があるのではないかとも言われています。出来の悪さについて「あれのせい」「これのせい」と,自分には非がないように主張することも多く,客観的に立証するというのは難しい。

時間を与えて,改善を促し,指導・訓練等していくという点に関しても,わざとらしいと,裁判所も気が付いてしまうでしょう。書面(証拠)を積み上げても,解雇が有効と判断されないかもしれず,証拠がないと解雇が有効になりにくいですよとはいうものの,証拠があればいいというものでもありません。

本当にその社員のことを考えて指導していればいいですが,クビを切るためのステップ・作業となってしまっている場合は要注意です。こうした指導・訓練が愛をもってしっかりできていれば,労働者の方から改善を図るか,場合によっては,迷惑を掛けているとして辞めていくようなこともあるようです。訓練といっても何をするのかという問題もあります。ビジネスは日々刻々と変化していくもの。どのような対応が望ましいか,悩みは尽きないですね。

パフォーマンスがあがらないという理由で解雇などを考えている場合,1度立ち止まって,専門家の意見を仰いだ方がよいかもしれませんね。解雇紛争が訴訟に移行した場合,会社側としては厳しい戦いを強いられるかもしれません。はやめの検討をおすすめいたします。

「売上を、減らそう。」

佰食屋 中村朱美「売上を、減らそう。」

ランチのみの国産牛ステーキ丼専門店が取り組んでいる「仕組み」を紹介する本です。なかなか興味深かったです。

飲食業界は,長時間労働・残業が当たり前の風潮があるということですが,そんななかで36協定も結ばずに残業ゼロという驚異的な成果を出しています。

「時間」をベースにするのではなく,「100食売る」という結果をベースにする。売上を増やそうとは考えず,従業員の時間と給与,自分たちの生活に必要なお金があればいいと割り切って経営する。従業員は,どんな人でも即戦力になる。フードロスゼロ。サービスを極限まで絞り,圧倒的な商品力で勝負する。目からウロコのお話ばかりでした。

弁護士の場合,仕入れがない=粗利100%であることや,経費と言っても会費,家賃,給与,雑費等々,通常の会社など員比べれば支出が限られているであろうことなどから,利益を出そうと思ったら,どうしても売上を増やすことに注力することになると思います。しかし,売上が増えるということは,(成功報酬だけ増えるのであればいいですが)着手金をいただくということは仕事が増えるということですので,どんどん仕事が増えていって,どこかの段階ではサービスが追い付かなくなる危険もあるのだと思います。

その日その日の売上で生計を立てている士業にとっては,明日どうなるかわからないという恐怖との戦いでもあって,「売上を、減らそう。」という提言を取り入れるのには勇気がいるのかもしれませんが,しっかりとした「仕組み」づくりのもと,お金だけでなく個々人の「時間」をも大事に経営していくことは重要だなと思った次第です。

災害の際にどのようにして乗り切ったのか(従業員を大事に,売上をさらに半分に)なども大変参考になります。経営者の方々におすすめの一冊。

「ありえないレベルで人を大切にしたら23年連続黒字になった仕組み」

㈱日本レーザー代表取締役近藤宣之著「ありえないレベルで人を大切にしたら23年連続黒字になった仕組み」

日本初のMEBO(雇用も含めて親会社から完全独立)を実施し,人を大切にしながら利益を上げる改革で10年以上も離職率がほぼゼロ,連続での黒字を達成した社長のお話です。

社長曰く,人生で7度の崖っぷちに立たされながらも,賭けに勝って何とか再建を果たしたとのこと。崖っぷちのなかには,「28歳のとき、生後3日の双子が病死」などの壮絶な経験もありました。「会社は雇用を守るために存在する」というポリシー(「社員の雇用」「社員の成長」が会社の目的)を柱に,「社長の決意」「笑顔」「社員が自発的に仕事をするように」などといった話から,「経営には運をたぐりよせることも大事,その方法」などまで,なるほどと思うエピソードが満載でした。

そう,経営において,運も大事です。運だけでは続きませんが,運を「引き寄せる」ことは必要だということですね。運がよくなるには,「いつも明るくニコニコと笑顔を絶やさないこと」「いつも感謝すること」「昨日より今日,今日より明日と『成長する』こと」「絶対に人のせいにしない」「身の回りに起こることは必然と考え,すべてを受け入れる」といった教えは,経営者としてすぐに実践していこうと思いました。

経営者のお話は,私自身も経営者として大変参考になります。今後もいろいろと勉強していきたいです。 enter image description here

注目を集めるハラスメント事案の実務対応の在り方について

平成30年8月28日13時~15時,「注目を集めるハラスメント事案の実務対応の在り方について」と題しまして,福岡県の公平委員さん向けに,講演を行いました。

みなさん,熱心に聴講いただけました。セクハラやパワハラは,古くて新しい問題で,少なくとも1980年代から議論はあるものの,今なお,ニュースを賑わわせています。最近は,ハラスメント保険が注目を集めているなどといった記事も目にするようになっていますね。

講演のなかみとしては,セクハラとパワハラを中心に,許されるものと許されないものの境界を探る形で,検討をしてみました。パワハラは特に難しいですよね。

ところで,近時のニュース,スポーツ界では,まわりはパワハラではないかと思っているが,被害者とされる本人がパワハラだと思っていないと言っている,というような問題状況がみられます。あれは難しい問題だと思います。教科書やものの本を見ても,あまり議論されていないように思うのですが,これから議論が深まっていくのではないかと思います。

今回の講演前に勉強したこと,講演したこと,みなさまの反応を確認できたことなど,さまざま勉強になりました。多数の方に豊前市にお越しいただき,それゆえ緊張もしましたが,みなさまに何かしら持ち帰っていただければなと思います。 enter image description here enter image description here enter image description here

あさかぜ研修

平成30年8月25日,幣所にて,あさかぜ研修を実施しました。

あさかぜ研修とは,私の勤務していた前事務所,あさかぜ基金法律事務所の社員弁護士向けの研修です。同事務所は,私と同じく,弁護士過疎偏在地域,平たく言えば弁護士が少ない地域にもリーガルサービスを行き届かせたいという志をもった弁護士が勤務し,事件処理,事務所経営,研修などなどを通して,日々研鑽を積んでいます。その一環として,事務所OBである私が,現地での経験を踏まえてお話をするというわけです。

最近は,大中規模の人数を対象に,一方向の講演形式でお話しすることが多かったため,少人数での研修は,私としても新鮮でした。ディスカッション形式で研修を進めましたが,同じ志をもつ弁護士同士,するどい意見もあり,こちらも大変勉強になりました。

現地開催ということで,事務所案内,現物を見ながらの説明もできました。百聞は一見に如かずと言いますから,幣所の取り組みが,少しでも役立てば幸いです。

具体的には,その土地のことをよく知ること,日々の生活の中に経営や勉強のネタが広がっていること,目の前のお客様にプロとしての知識と知恵を提供するようつとめること,さらに付加価値のある最上のサービスの提供を目指すこと,紛争の解決が目的であるから柔軟な発想で受任し事件処理をすること,迅速解決は大きな価値であること,事務所運営に必要な各種取引は広がりのある活動をするための最上の機会であること,コストと考えるか投資と考えるかは自分次第であること,まずは自分が幸せでなければ人に幸せを提供することはできないこと,ワーク・ライフ・シナジーを目指すこと…などなど,思いつく限りでさまざまお話しできたのではないかと思います(最後のワーク・ライフ・シナジーは,久保利弁護士の言葉をお借りしました)。

なお,参考までに,私の個人的なモットーは, “その土地のことを知り,好きになり,密着した活動を行う” “お客様の視点で,お客様の喜ぶことを,しかしプロとしての意見と判断はきちんと示す” “転んでもただでは起きない,トライ&エラー” の精神です。

幣所は,後進の育成,事務所運営に関する研修も積極的に取り組みます。ご興味がある方は,ぜひお声掛けください。 enter image description here enter image description here enter image description here

北九州空港から京築・北九州の未来を考える~片山憲一氏講演会~

平成30年6月27日,豊前商工会議所全員大会の企画として,北九州エアターミナル㈱ 顧問 片山憲一氏 講演会が執り行われました。大変興味深い内容でしたので,簡単ですが,メモしておきたいと思います。

片山氏は,北九州市入庁後,さまざまな部署の局長等を経験したうえ,市を退職,北九州エアターミナル㈱代表取締役社長として活躍されました。会員大会の3日前,6月25日に,社長を退いて,いまは顧問として活動されています。北九州空港にかかわり,人の動きを見てきた同氏の,説得力ある考察に,圧倒されるばかりでした。

「よいもの」「おいしいもの」だけでは人は来ない,ストーリーをもってその地域を紹介できるか,徒歩でその地域を歩いていきたいと思うか,そういった視点が重要だという話は,目からウロコでした。車で移動する生活に慣れてしまったからか,歩いて地域をめぐるワクワクドキドキといった感覚がなくなっていたような気がします。アウトプット=結果,アウトカム=成果であり,アウトプットから「何か」に気づき,「何か」を成し遂げるのは,主体性を持った人間の仕事であって,アウトカムを得る取り組みが重要という話についても,なるほどなと思いました。

ところで,その前日の26日,西日本新聞京築版において,「北九州エアターミナル 業績好調」という記事が紹介されていました。講演会などでお話をうかがうと,ニュースもぐっと身近に,興味を惹かれるようになりますね。

引き続き,研鑽を積んでいきたいと思います!商工会の皆さん,ありがとうございました。

法人確定申告書の読み方

日弁連の研修で,私的整理を取り扱いました。これに関し,企業の活動の実態を把握するために,決算書,確定申告書,勘定科目内訳明細書,法人事業概況説明書等をどう読み解くのか,企業の再生支援をする立場の目から,ご教授いただきました。バンカーや経営者等の参考にもなると思いますので,私の備忘も含め,記します(順不同)。

確定申告書。別表第二を見れば,株主の構成がわかります。もちろん,株主名簿や株券発行会社かどうか・株券の有無/所持者なども確認すべきですが,重要な情報です。「損金不算入」という考え方をきちんと把握すべきです。会社は経費にしたけど,税法上は損金にしないもの。交際費等がそれにあたります。今期より前の欠損金を使っているかどうかは注意。今期の本業の営業成績とは関係しない税法上の処理については,キャッシュベースでとらえなおすという発想も大事。別表第五(二)「租税公課の納付状況等に関する明細書」はチェック。税金の滞納が大きすぎると,私的再生が困難になります。金融機関の貸し付けと異なり,社会保険料等を含む公租公課は,頻回な督促や連絡もないことが多く,ため込みやすいです。滞納があるということは,それを支払った時には,滞納税が確定して,その後に滞納税の支払いも求められるということ。滞納の裏には簿外に延滞税があることに注意しなければなりません。国税ですから,まけてもらえませんですからね。別表第五(二)の「延滞税」の記載にも注意が必要です。別表第七(一)も大事。青色欠損金は,タックスプランの基本。別表十六(一)では,減価償却に注意。償却不足があるということは,利益が出なかったから,償却を見送ったということだろう。償却というのは,フィクション性の強い考え方なので,キャッシュベースに引き直して考えることも大事。

決算書。まずは純資産の合計を確認して,資産超過かどうか,債務超過でないかを確認。さらに,実質的にも資産超過を確認する。資産の部のうち,「売掛金」が多い場合は,回収できるかどうかが重要。「商品」が多い場合は,在庫をチェック。本当に売れるのかをチェックします。「投資有価証券」などの記載がある場合は,関連会社の株式や証券でないかなどを確認。親子会社などであれば,親会社が悪くなれば子会社も悪くなるのが普通です。そうすると,株式や証券に価値がなくなるかもしれません。

損益計算書。その企業の本業の成績は,「営業利益」にあらわれます。ここが黒字でなければ,相当ヤバイかもしれません。利益が出てるか?をまずは確認する必要があります。さらに,利益が出てないように見える,またはトントンなどというときは,キャッシュベースでみるとどうか?という点もチェックします。たとえば,販管費内訳をみて,減価償却が計上されている場合,その減価償却分は,実際にキャッシュが出ていくわけではないので,キャッシュベースに直す場合は,加算して考えます。キャッシュベースでみてなんとかプラスになっている企業であれば,なんとか持ちこたえる芽を見出せますが,そうでなければかなり厳しいと思います。

勘定科目内訳明細書。「売掛金」の明細を見ると,取引先がわかって,ビジネスモデルを俯瞰する上で参考になります。3年程度は推移を見ますが,特定の会社の金額が変わっていないときは,単に回収できていないだけという可能性があるので注意。また,「その他」の金額が大きい場合も,本当に回収できるのか,注意が必要です。「在庫」も粉飾が多いところなので注意。「その他」が多いときは特に注意です。「借入金」の明細については,個人,特に社長からの借入金がないかチェック。負債が多いように見えても,社長からの借入だけが多い場合などは,整理がしやすいかもしれないです。

法人事業概況説明書。事業内容や役員や従業員の数がわかったりと便利。

……などなど。実際の書面を見ながら,私も,日々,見る目を養っていきたいと思います。ご紹介まで。

上毛町商工会講習会(事業承継について)

12月13日,上毛町商工会の講習会に講師としてお招きいただき,事業承継のお話をしてきました。当事務所の開所式にお越しいただいた会長様とのご縁です。ありがたいことですね。

事例中心で検討し,工夫をしたつもりですが,百戦錬磨の経営者方ばかりを相手にしてのお話ですから,非常に緊張して,また悩んで準備・お話しました。内容は,また別の記事でもいろいろ書いていこうと思います。

講習会中にも紹介しましたが,金子コード株式会社の三代目社長,金子智樹氏が書いた「社長ほど楽しい仕事はない」という本によると,事業承継は,「譲られる側が主体だ」と言います。

特に創業者社長などは,最後に大きな事業を成功させて会社を去ろうとする場合がありますが,きちんと譲って,後進がきちんと会社を発展させたということこそが,なによりも難しい経営判断を見事成し遂げ,最も偉大な功績を遺したということになるのではないでしょうか。譲られる側に焦点をあてるという指摘も,的を得ていると思いますが,私としては,「お客様のため,お客様に価値を提供する会社のため」を考えると,「これから会社を発展させていく譲られる側主体の事業承継」になるのかなと思っています。

質問で,なかなか継いでくれる人がいない,年齢的には引退すべき年齢だが,生活のためにいつまでたっても引退できない,そういう経営者も多い,そういった場合,どうお考えかという質問もありました。とても難しい,それでいてとても現実味のある問題です。どちらかというと,備えておいた方がいいですよという形の講習になりがちなところで,現実,こういった場合どうすればよいのかと問われると,考えさせられるところがありました。ありがとうございます。私もさらに考えます。

事業承継は,①後継者確保・選定・育成・承継方法をめぐる問題,と,②財産をめぐる問題,の大きく2つに分かれます。法律家が関与するのは,どちらかというと②の方が多いです。しかし,昨今事業承継の困難性が叫ばれているのは,むしろ①の問題が大きいです。さらに知見を広め,①の問題,さらには質問にあった経営者の引き際の問題などについても,深めていきたいと思いました。

私の財産にもなる講習会でした。受講者にも,なんらか少しでも受け取っていただけるものがあったらいいなと思います。ありがとうございました。

事業承継について(3)

事業承継の障害になり得る制度として,「遺留分」という制度があります。相続人の生活保障などの趣旨で,最低限の相続を受ける権利が与えられており,これを遺留分制度と呼びます。

事業承継を円滑に進めるためには,経営の承継のため,後継者に,株式や事業用資産を集中させることが望まれます。遺言等の活用も考えられます。しかし,先代がいくら財産を後継者に移転させても,他の相続人が,遺留分減殺請求をすることで,株式等の財産が分割され,安定的かつ円滑な事業承継を行うことができなくなる可能性があるのです。

また,ここでも,株価の上昇が問題になり得ます。後継者の貢献によって,会社の業績が向上すると,自社の株式の評価額も上昇します。先代である被相続人の遺産に自社株が含まれていると,その評価額は相続開始時の価額になります。生前に株式を贈与していても,特別受益として相続財産に持ち戻されれば同様です。自社株の相続税評価額が上昇することで,相続財産全体の評価額が上昇すると,結果的に,その上昇分は,遺留分の上昇につながってしまうのです。後継者が経営努力をすればするほど,遺産分割時には自分にマイナスとなって跳ね返ってくるわけで,逆のインセンティブとなりかねないのです。

こうした不都合を介するため,経営承継円滑化法により,民法の特例を定めています。除外合意(贈与等により取得した自社株式を遺留分算定の基礎財産から除外する制度),固定合意(生前贈与株式の価額を当該合意時の評価額であらかじめ固定できる制度)について定めています。ただし,これを利用するには,推定相続人全員の合意が必要など,要件が厳格で,使い勝手が悪いなどと批判もされているようです。