私(西村幸太郎)の一連のブログ記事です。私がどういう人間なのか、どういう活動をしているのか、どんなことを考えているのか、どんな知識やスキルを持っているのか、信頼に足る弁護士か、などなど、たくさんの疑問をお持ちの方もおられると思います。そのような方々は、是非こちらの記事を御覧ください。

レビュー 白い巨塔 1978

田宮二郎主演「白い巨塔」(1978~1979)

先般,2003年版(唐沢寿明主演)や2019年版(岡田准一)についてのコメントをしましたが,今回は1978年版。

古いと言えば古いですが,映像で魅せる形のものではなく,人間ドラマがメインですので,新しいものに見劣りしない出来栄えだと思います。

1978年版,田宮二郎が演じる財前五郎は,名誉心が強く,それがわかりやすく表に出るタイプのキャラクターです(唐沢さんはポーカーフェイスが強いタイプ,岡田さんは二枚目タイプのように思います。)。「登り詰めたい」という欲望がわかりやすく前に出てくるようなキャラクターで,そこがなんとも魅力的です。それでいて強くお母さん想いだったり,時々弱さを見せたりと,そのギャップも素晴らしいです。

内容的には,他と比較しておそらくかなり長時間のドラマですので,特に医療裁判編はボリュームたっぷりで見どころがあります。ただ,ラストで財前の癌がわかってからのドラマのボリュームは最近のものの方が長くて深かったように思います。1978年版は最後まで誰も本人に癌の告知をしませんが,いまではインフォームドコンセントの観点から問題があるのではないでしょうか。劇中でも「やっぱり告げておくべきではなかったかな」という発言も出てきます。

手続上の比較。1978年版は,里見・柳原の対質尋問,財前・柳原の対質尋問の両方があります。新しい2003年版,2019年版はカルテの改ざんが出てきますが,1978年版はカルテの話は出てきません。2003年版では改ざんされた紙カルテの証拠保全がされましたが,1978年版は死亡した患者の異の標本を証拠保全します。病理検索するためにですね。弁護活動の比較をするのも面白い。

弁護士のキャラクターにも作品ごとの特徴があります。1978年版は原告代理人が正義感あふれるキレ者の弁護士。「実費だけもらえれば」なんて,私には真似できそうにありません。私が1番好きなのは2003年版の弁護士。医療裁判に負け続けて腐りかけ,最初は高額な着手金ほしさに依頼を受けるが,次第にこの医療裁判にのめり込んでいく。弁護士の成長ストーリー的な部分が非常に見どころあります。2019年版はやや抜けているところのある弁護士が活躍するといった感じですが,弁護活動がそれほど丁寧に描かれていないように感じます。特に法廷以外の描写について。

被告代理人については,2003年,2019年などについては,少なくとも財前が虚偽供述をしているとは思わず,依頼者を信じて闘っているという点で,許容できる弁護活動と思いましたが,1978年版はひどい。あれは虚偽供述とわかってながら,医局員にその裏付けのための供述を記憶喚起するように求めたり,弁護士自身がお金をもって証人に接触したり(2019年版は主に財前又一の接触)…まるで悪代官のようです。

こうしたところを比較していくところも面白いと思います。

弁護士の視点で,手続き的な部分,弁護士の活動などについて,比較をしてみました。ご参考いただけますと幸いです。

レビュー 劇場版 鬼滅の刃 無限列車編

劇場版 鬼滅の刃 無限列車編

勢いのある映画です。興行成績も,本日現在,既に325億円を超えているとか。

ご相談者様から聞いた話では,「キメハラ」なるものが横行するほどの人気ぶりだそうで(キメハラ=鬼滅ハラスメント。鬼滅の刃の話についてこれない人が輪に入れなかったり,自分の意見を押し付けたり押し付けられたりといった現象のことを指すようです。)。私もはぶられないように,例に漏れず漫画・アニメ・映画と鑑賞させていただきました。

鬼滅の刃全般についていうと,もともとポテンシャルのあった作品なのでしょうね。キャラクターも個性的。物語そのものも魅力的。なのはもちろんとして,しかし,当初はそれほど著名というわけではなかったようです。アニメ化をきっかけとする「売り方」も非常によかったんでしょうね。

【以下は,ある程度なかみを知っている,映画を見ている人でないとわからない内容かと思います。ネタバレもおおいに含みますので,必要のない方は読み飛ばしてください。】

首はとぶし,血ははねるし,やたらと主要メンバーが死んでしまう本作。ハッピーエンドかと言われればそうとも限らないわけで,なんとなく,ここまでヒットするような作品とは想像もしていなかったのですが…アニメ化によるプロモーションがよほどすごかったのでしょうね。ヒットの要因を,さまざまな方が分析していますが,自分なりにこれを分析するのも面白そうです。

本作は,単純な勧善懲悪モノというわけではありません。敵とされる鬼ももともとは人間で,それぞれ,過去に理由があって鬼舞辻無惨(ラスボス)の血を得て鬼になっています。そういう意味では,少年漫画にありがちな勧善懲悪もの,正義が悪をやっつけるといった単純な構図ではない。そういった複雑さも,今時なのでしょう。それぞれの人間模様,群像劇が,物語に深みを与えているのでしょうね。

そういった作品は,キャラクターの心理描写,回想シーンなども物語に深みを与えるポイントになっていると思います。しかし,こうしたシーンが増えれば増えるほど,一方のヤマ場であるバトルシーンや物語全体の躍進感が削られるといったジレンマが生じがちだと思います。しかし,本作に関しては,むしろ,アニメ化により一層の躍進感を演出することに成功しているように思われます。これがヒットの要因なのかもしれませんよね。

映画は,原作の途中部分であり,何の説明もなく始まるため,原作を知らない者にとって不親切と言えば不親切です。そこは,ある程度予習してくる人が多数と踏んでいるのでしょう。原作もチェックしている私としては,おおむね原作に忠実だったのではないかと思いました。

列車モノは映画になじむと言われますが,冒頭,SLが走り出し,全方向からその様子が映し出されるワクワク感から始まるのはよかったです。乗り物好きのお子さんには特に喜ばれるのではないでしょうか。といっても,戦闘シーンの多くは車内又は脱線後になるため,列車モノのよさが完全に生かしきれていたわけでもないのでしょうが(よく見られる車両切り離しなどの演出もありません。),十分楽しめます。

前半は,各人の「幸せな」夢の中の話。どこまでも透き通った炭治郎の精神世界,正義の炎が埋め尽くす煉獄の精神世界など,心の中が対比されるように描き出されており,戦闘シーンだけでない見どころが描かれます。そこで,あえて幸せな夢の中ではなく,過酷な現実世界に,しかも自分の首を切り落としてまで帰るという炭治郎の複雑な心の中が,見事に描き出されていたように思います。一方で,鬼の甘言にのって,各人の精神世界の「核」を破壊しようとする者たち。これらとの対比によって,炭治郎の心の動きがより際立っています。彼らと自分は紙一重。そんな心の叫びが聞こえてきそうです。

夢から覚めてからは,下弦の鬼との対決です。戦闘シーンも見どころ。

そして最大の見どころといってよいのは,後半,SLの脱線後,突如襲来した上弦の鬼と煉獄との対決でしょう。

正直,文脈なく突如鬼がやってきて,???という部分もなくはなかったですが,一部分を切り取った映画ということもあり,この点はやむを得ないのかなと思います。

ここで,上弦の鬼・猗窩座(あかざ)は,煉獄の強さを認め,「お前も鬼になるべきだ」と,スカウトします。さながら大企業の優秀な社員の引き抜きのごとくです。しかし,これに全く応じず,母との約束を胸に,自分の責を全うしようとする煉獄。目頭が熱くなります。

力をもつ者は弱きものを守るべき。私利私欲のためにこれを使ってはいけない。

絶命しようとしているその時でさえ,鬼になることを拒んで闘う煉獄の闘志は必見です。

くだんの猗窩座(あかざ)も,弱き者を嫌うのに理由があるのですが,これは原作のかなりラストのあたりまでいかなければ明かされないものです。そういった意味ではきちんと完全に描かれているわけではないですが,これもやむを得ないですかね。

煉獄は,冷静に考えれば,劇中でもラストを除いてほとんど戦闘シーンが描かれていませんし,原作においてもおおむねメインで登場したその日のうちに死んでしまうという役回りになるわけです。当時描かれている柱としては初めて死んでしまうキャラクターになると思います。それでも人気のあるキャラクター。それも納得の内容でした。

全体としては,ストーリーを大まか把握していても,目頭が熱くなるのを抑えきれないシーンが多数。戦闘シーンも見どころがありますし,心理描写も巧み。もちろん好き嫌い,趣味嗜好はあるでしょうが,多くの人を魅了しているだけあって,完成度の高い作品だったのではないでしょうか。

名言,名シーンも多いですが,日常生活や仕事でも活かしたいものがたくさんありましたね。

煉獄の,後に続く者を信じて闘う姿,経営者として見習いたいと思います。

復讐するは我にあり

今村昌平監督「復讐するは我にあり」(1979年(昭和54年))

地域ゆかり(?)の事件ということで,紹介させていただきます。

なお,基本的に凶悪犯を描いた映画なので,決して気持ちのよい作品ではありませんので,そのような内容が苦手な方にはおすすめいたしません。

西口彰事件(実話)をもとにした作品です。作中では「榎津巌」。九州・日豊本線築橋駅(今でいう苅田駅)から始まった殺人事件,78日間の逃亡生活の中で何度もにこやかに罪を重ね,最後は九州で裁判・死刑になります。

小倉の裁判所で死刑判決。身近過ぎて怖くなるほどです。

作中では,淡々と逃亡生活を描いていて,何かのメッセージ性があるわけでもなく…。想像を絶する人間もいるんだなという感想です。榎津厳役の鬼気迫る演技は見どころ。日本史に残る凶悪犯罪を目の前に。

実話でも,西口彰は,弁護士を語って詐欺を働き,弁護士を殺害してしまいますが…

作中は,何の文脈もなく,弁護士が殺されてしまっていますが,ただでさえ恨まれやすい職業ですので,私も気を付けたいと思います。

レビュー リウーを待ちながら

朱戸アオ「リウーを待ちながら」(1~3巻,完結)

今思えば,予言的(?)な作品。3年ほど前の作品ですが,そこで描かれる感染症の拡大は,現在の新型コロナウイルス蔓延を彷彿とさせるもの。本作でも,新型インフルエンザ特別措置法に基づき緊急事態宣言が出されています。コンビニで,店員が,「感染症対策のためにお釣りがないようにお願いします」と述べていたり,妙にリアル。(実際は,さすがにそこまでの声掛けはきいたことがなくて,トレーで受け渡して「ご協力ください。」くらいですね。)

物語は淡々と,だからこそ忍び寄る恐怖を掻き立てながら進みます。富士山のふもとに広がる横走市において,原因不明の急病患者が急増。次第に,それがペストによるものと判明。紛争地帯から持ち帰ってしまった自衛隊駐屯地から広がり,同市はパニックに。懸命に感染を抑え込もうとする医師の奮闘を描く半面,同市からの脱走,脱走者に対する周囲の迫害などの負の部分も描く。

事実は小説より奇なりと言いますが,現実の日本の現状は,小説で描かれている一市のアウトブレイクをはるかに超える規模で感染の問題が生じています。そうであっても,重なる部分も多いです。設定に「?」と思わせるところも少なく,特に今は引き込まれる内容になっていると思います。

感染症の蔓延により悲劇も起こる中,それを乗り越え,新たなる一歩を進み始めるまでの話。タイトルは,古典・カミュ「ペスト」のリウー医師を意識したものですが,今だからこそこの古典もチェックしてみたいと思いました。

今だからこそ読んでみたい一冊です。

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家づくりの品格 レビュー

安成信次著「家づくりの品格」

山口県下関市を本拠地とする,地元工務店,安成工務店。その二代目社長が想いをつづった書籍です。同工務店が理想と考える木造の家づくりについての詳しい説明や,その完成形に至るまでの紆余曲折が描かれていて面白い。

安成氏は,同書において,「日本らしい快適な家」のための七原則について,以下のように述べています。

①日本の家づくりの根本にあるのは「高湿度対策」である。

②その土地の「風通し」を最も重視すべきである。

③木など自然素材が持つ調質作用(結露しない)を最大限活用する。

④国産の木や自然素材が,日本の気候風土にかなっている。

⑤昔の家の欠点である「寒さ」は,「断熱」によって解決できる。

⑥「省エネ」と「健康」を両立する音は「自然素材による断熱材」だけである。

⑦家の骨格である基礎・構造・屋根・断熱材・外部建具は,お金をかけてでも「本物」でつくる。

これらを踏まえた理想の家づくりは,「国産材の構造材,床は無垢材,珪藻土の壁などの木の家に断熱材はセルロースファイバーのデコスドライ工法」という組み合わせだと言います。

①身近なリサイクル自然素材である新聞古紙を利用し,製造から廃棄までのライフサイクルを通し環境負荷が少ない。CO2排出量がきわめて少ない。

②「断熱性」と「調質性」,「吸音性」をあわせ持つ多機能な断熱材である。

③セルロースファイバーを高密度に施工することで「機密」も十分にとれる。

④“調質機能が高い”ので,からっとさらっとした室内空気の家に仕上がる。

⑤最小限の冷暖房で家じゅうが温かく,また涼しい。

⑥「省エネ」と「健康」の両方を実現する唯一の家づくりである。

といった優れた諸点があると言います。

昨今,震災等の影響で,丈夫な家,鉄骨の家が注目を集めていると聞きますが,そうはいっても昔ながらの木造の家が大半な現状はまだまだ続きそうです。鉄を扱うにはある程度の規模がある会社でないと難しいでしょうが,木造はどんな業者でも一応扱えると聞いたことがあります。それ故,どんな木を使うのか,どんな施工をするのか,どんな個性があるのかなど,業者により千差万別で,家を建てる側からすれば,考える・選ぶ楽しみというのがあるのかもしれません。

弁護士業務との兼ね合いで言いますと,私も多少ではありますが建築事件を扱った経験もあれば,豊前に来てからもお目にかかっています。やはり,自分で建てたことが有るか無いかは,経験値として大きい違いになると思いますし,その際にある程度勉強していけば,今後の業務にも役立つでしょう。身の回りの事象全てが勉強だと思って,日々,研鑽を積んでおります。今後ともよろしくお願いいたします。

「見えない資産」の評価が高まった企業 日経新聞レビュー

2020年2月11日(火)・日経新聞・11面記事

「見えない資産」の評価が高まった企業 信頼が強める成長期待 1位 弁護士ドットコム

記事によると,中堅上場企業(売上高100億円以下)を対象に,2019年末まで3年間のPBR(株価純資産倍率)の上昇率を調べたところ,首位は国内弁護士の4割強が登録する法律相談サイトを運営する,弁護士ドットコムだったそうです。

利用する弁護士,利用する市民がいなければ,成長はあり得ないでしょうから,それだけ弁護士へのアクセスを求めているということが読み取れるのかなと思います。2016年末と2019年末を比べると,約5割増えたそうですが,凄いですね。この3年間でそれだけ認知度が高まったということ?人数の多い新規登録者が軒並み登録しているということ?ほかにもポータルサイトはありますが,ある程度の登録がなければ,本当に比較検討はできませんで,お金払った人が目立つだけで,本当によい先生との出会いというのが望めなくなると思いますから,弁護士の多くが加入しているポータルサイトがあるというのは,よいことだと思います。

とはいっても,私は,どちらかというと,自前のHPを増やしていきたいと考えており,毎年,年に1分野ずつは作りたいと思っています。今年は海事関係のページを作る予定です。

なお,電子契約サービス「クラウドサイン」も注目を集めているのだとか。こちらも動向を注視すべきですね。

今後とも幣所をよろしくお願いいたします。

「七つの会議」

池井戸潤原作,映画「七つの会議」

まるで半沢直樹の再来のような監督・キャスト人に,野村萬斎さんの怪演が光る至高の一作。とあるパワハラの訴えに始まり,会社の裏事情が徐々に明かされていく中,とんでもない事態に至っていることが分かり,クライマックスに向かって盛り上がりが最高潮になっていくという,見事な構成だと思いました。各々の登場人物が,独白のような語りで様々なシーンを描いているのも印象的。それでいてバラバラではなく,最後までよくまとまっていると思いました。

【ネタバレ注意】 大規模なリコール隠しに関する話。人命にかかわる重大事態,しかし今すぐに何か問題が生じているわけではない,公表すれば会社が倒産する,たくさんの従業員が路頭に迷う,,公表するのか,隠ぺいするのか。ヤミ回収をして実害が発生しなければそれでいいのか。何を守るべきで,何が正義かということがテーマになっているようで,ドンドン進んでいくストーリーの加速感の反面,取り扱っているテーマとしてはなかなか重いものがありました。萬斎さんが独白のように「不正はなくならない」しかし悪いことを悪いことと指摘できるような社会が不正をなくすのではと語っていたラストが,非常に印象的で珍しい終わり方だったのではないかと思いました。

しかし,会議の内容や上司の部下に対する指導の内容を見ると,「いや,コレあかにんやろ」というシーンがしばしば。パワハラのオンパレードのような気がしましたが,これも「体質」の問題なのでしょうかね…

モノづくりに魂を込めてきた日本。そのモノづくりの原点ともいわれる「ネジ」を取り扱っていることも,半沢直樹を彷彿とさせるものでした。

なかなか見ごたえのあるドラマです。ぜひご覧あれ。

「交通事故で頭を強打したらどうなるか?」

大和ハジメ「交通事故で頭を強打したらどうなるか?」

高次脳機能障害などの障害を把握する。実際に体験した方のリアルな経験談を聴くことにより,事故に遭うということがどういうことか,障害をもつということがどういうことかを,もちろん一端に過ぎないのでしょうが,これを知ることができる貴重な一冊です。漫画なので比較的読みやすいとも思います。独特な絵が,ある種のリアリティを感じさせるものでもあります。

特に,病院から復帰して,学校に赴いたとき,「普通のことが普通にできない」ということに気が付いたとき,,といった局面での本人の心情が,ものすごく印象的でした。

交通事故を扱う弁護士としては,読んでおきたい一冊と思いました。 enter image description here

「相続道の歩き方」

弁護士 中村真先生 「相続道の歩き方」

特徴的なイラストで有名な,現役の弁護士による,相続の解説書です。たくさんのイラストに目を奪われ,それだけでも楽しめるのですが,本文の内容は,かなり高度で細かな内容も記述されています。

全体的な感想としては,民法の教科書的な並びでもなく,実務のフローにあわせた流れというわけでもなく,独自の視点で相続法を整理して記述したもののように思われ,まずはその体系的描写が斬新だと思いました。内容的には,もちろん実務的に役立つ描写は満載なのですが,どちらかというと概念整理,概念の深掘りなどをしっかりしている書籍ではないかと思われ,改めて頭の中を整理するのに最適な書籍ではないかと思われました。

「特定遺贈と包括遺贈を区別する必要性はどこにあるか」(包括遺贈の場合,相続人でない受遺者も相続人と同じ扱いを受け(民法990条),包括遺贈の放棄も相続放棄の手続に従うなどしなければならない。),「法定相続情報証明制度の活用」,「相続で引き継がれる財産には,財産法上の法的地位なども含まれる」(本人の無権代理人相続と,無権代理人の本人相続),「生命保険金の受領は,判例上特別受益に該当する場合があるが,その場合に,持戻しの範囲をどう考えるかは別の問題」(被相続人が払った保険料額の総額説,被相続人死亡時の解約返戻金相当額説,総保険料額に対する被相続人が死亡時に支払った保険料総額の割合を保険金額に乗じた額説など。),「相続前における遺留分の放棄は,家裁の許可の上で一応認められているが,裁判例上,遺留分放棄者が,遺留分権利者の自由な意思に基づくものであるかどうか,その理由が合理性もしくは田労政,必要性ないし代償性を具備しているかどうかを考慮すべきとされている。」………

などなど,いろいろと知識・理解を深めていくことが出来ました。

入門書としては,やや難しいかな?という気もしますが,イラストの楽しさと相俟って,サクサク読めるだろうと思いますので,幅広い層の方におすすめの一冊です。

「税のタブー」

三木義一「税のタブー」

なかなか面白かったです。切り口が斬新で,「宗教法人はなぜ非課税なのか?」「暴力団の上納金には課税できるのか?」「政治団体と税」など,これまであまり語られてこなかった税の話が,読みやすく,それでいて基礎から説き起こす充実した内容で解説されています。

特に,暴力団の上納金については,税務署が暴力団に介入して調査しづらいという実際的な話だけではなく,根強い「暴力団の上納金=サークルの会費」論にみる理論的問題の壁が大きいことがよくわかりました。

ほか,印象的だったのは,印紙税の話でした。印紙税という制度は,明治に作られた制度で,農民の納税に頼るだけでなく,商工業者にも負担してもらうために導入した制度だそうですが,課税の範囲が不明確で,前々から納税者とトラブルが絶えず,法改正後も同様の状態が続いているそうです。著者は,不合理な制度でなくすべきだと述べています。その不合理さは,いくつかの新聞記事を取り上げて紹介していますが,なるほどと思わせるものです。ここまでダイレクトに,印紙税はいらないと述べる本も珍しいのではないでしょうか。

宗教法人と税,政治団体と税,暴力団の上納金と税,必要経費,交際費の範囲,印紙税,固定資産税,酒の販売と免許,特別措置法,源泉徴収,国境を越えた場合の税など,興味深いさまざまなテーマを取り扱っており,平易な文章で基礎から説き起こして学べる,興味深い一冊です。

税金は,社会生活を営む上で支払うべき会費などと言われることもありますが,その会費のシステムがどうなっているのか,身近で興味があると思いますから,どんな層の方でも発見がある本ではないかと思います。おすすめです。