私(西村幸太郎)の一連のブログ記事です。私がどういう人間なのか、どういう活動をしているのか、どんなことを考えているのか、どんな知識やスキルを持っているのか、信頼に足る弁護士か、などなど、たくさんの疑問をお持ちの方もおられると思います。そのような方々は、是非こちらの記事を御覧ください。

ブリッジ・オブ・スパイ

「スパイ」というタイトルですが,スパイアクション映画ではありません。冷戦時代,水面下で行われていた交渉に関し,弁護士の活躍を描いた,サスペンス映画です。

弁護士ジム・ドノヴァンは,ソ連のスパイの弁護を引き受けることになります。バッシングを受けながらも,懸命に弁護するドノヴァン。なんとか死刑を回避することができたが,その先には,さらに困難なミッションが待ち受けていました。冷戦下のソ連・東ドイツを相手に,捕虜となったスパイ同士の交換です。もともと,保険を専門に扱う事務所の腕利き弁護士として活躍していたドノヴァン。弁護士の真骨頂,交渉力が光る傑作です。

弁護士は,実に様々な業務を担当していますが,歴史的には,このような大役を担っていた方もおられるのですね。おすすめの一作です。ぜひともご覧あれ。

5時に帰るドイツ人,5時から頑張る日本人

「メメント・モリ」とは,ラテン語で,「自分がいつか必ず死ぬことを忘れるな」という意味です。ドイツ人は,この言葉を噛みしめ,若いころから,休暇を十分に楽しむ風習があるそうです。

ドイツと日本の働き方を比べながら,日本の労働環境に警鐘を鳴らす,興味深い本を読みました。熊谷徹「5時に帰るドイツ人,5時から頑張る日本人」。三波春夫氏が広めた「お客様は神様」といい言葉があらわすように,過剰ともいえるサービスを競い,顧客もそれを求める日本と,サービスはそこそこでも寛容なドイツ。労働時間の長さが評価されかねない日本の風土と,残業を許さないドイツの風土。ドイツは,1日10時間を超える労働は法律違反で,管理職も,徹底して,退社を推進しています。日本も「働き方改革」として,労働時間の制限を検討しているものの,とても十分な内容とは思えないのが現状ですが,ドイツのように法律で強制力をもって長時間労働の禁止を徹底するぐらいではないと,これまで築いてきた日本の風土を破って改革をするのは,難しいのかもしれません。

日本でNHK記者として働いたのち,実際にドイツで暮らしてきた経験を踏まえ,比較法的に働き方について考えていきます。日本においても長時間労働,残業を許さない風土,社会的合意を形成するためにどのような取り組みが有効か,考えていく上でのヒントになるかもしれません。高橋まつりさんの事件の教訓を風化させないよう,労働者皆が,そして使用者も,きちんとした関心をもって議論していく上で,このような本は大変参考になるのではと思いました。

メンタルと法律問題

電通の過労死事件など,痛ましい事件が後を絶ちません。現代社会を生きる人々にとって,メンタルの問題は,避けて通れないようです。

メンタルの問題と法律がどうかかわるのか。たとえば,メンタルをやられてしまっている原因が借金にあるのであれば,債務整理という形で弁護士が関与し,その方のフレッシュスタートをサポートすることができます。以前,「お金のことで死ぬなんて,馬鹿らしい」と述べていた方がいたと思いますが(誰のことばかは忘れてしまいました。),弁護士の立場からは,少なくとも借金の整理については,贅沢を言わなければ,さまざま対応が可能な分野だと思います。離婚など,人生の一大事に関しても,できるだけ前向きな協議離婚/調停離婚ができるようにお手伝いするなど,弁護士が対応できることがあると思います。企業におけるメンタルヘルス対応に関しても,就業規則作成の段階で,どのようなメンタル対策の制度設計をすればよいか一緒に考えるなど,お手伝いできるものと思います。

では,実際,メンタルをやられてしまったら… 過労死に関しては労災民訴という形で対応したり,事後的な対応はあり得ますが,やはり,問題が生じる前に対処できるのが1番です。主に,個人個人での対応における参考になるものだと思われますが,最近読んだ本(マンガですが)で,「死ぬくらいなら会社辞めれば←ができない理由(ワケ)」「うつヌケ」という本が非常に参考になりましたので,一部ご紹介させていただいた上,本稿を締めくくらせていたきたいと思います。

・「死ぬくらいなら会社辞めれば←ができない理由(ワケ)」

ヤバイな,と思ったら,これだけは忘れないで欲しい。「世界は,本当は 広いんです。」 / こんなナゾナゾを思い出してほしい。「世界を一瞬で消す方法は?」-こたえ「その目を閉じればいいだけ」 / 「なにが君のしあわせ なにをしてよろこぶ」(byアンパンマンマーチ) / 「うらやむ」=自分をその人の位置まで高めたいと思う 「ねたむ」=その人を自分んオ位置まで落としたいと思う 「うらやむ」は自分次第,幸せになれるのは「うらやむ」 / 「命てんでんこ」の精神…地震や津波のときは「周囲の人間の安否よりまず自分の安全を確保する」という考え方 / がんばらない,無理しない,配慮しない,自己中心的,起きない,立たない,やらない,逃げる,寝る,さぼる,人まかせ  /

・「うつヌケ」

うつの原因は「自分をキライになったこと」→自分を好きになればいい / アファーメーション(肯定的自己暗示)…朝目覚めた時「自分を誉める言葉」を唱えるだけでよい / うつには「突然リターン」がある / うつを重くしているのは「はげしい気温差」(?!) / ヒポコンドリー性基調者 / うつになってしまったら,自分を否定する者からは遠ざかり,自分を肯定してくれるものに近づこう / ささいなことでもいいので必要とされている役に立っていると実感できる瞬間を待とう!! /

ミイラとりがミイラにならないよう,私も,メンタルヘルスには気を付けたいと思います。

還付金詐欺について

なんとなく今日の西日本新聞を見ていたら,「還付金詐欺 知ってたのに」という記事が目に飛び込んできました。

記事によると,「返金」といわれ,還付金詐欺が思い浮かばなかった,「返金は今日が締め切り」と言われた,ATMの操作をしたことがなく,言われるがままに操作したら,振り込みをしていた,明細をみて初めて気が付いた,「自分は絶対引っ掛からないと思っていた」…などと記載があります。アナウンサーのような落ち着いた口調で話され信用したなどといった例も記載がありました。

このような詐欺は許せません。虎の子の老後資金だったと思われるのに,これを平気でだまし取るというのは,大変悪質です。こうした詐欺を撲滅するためにも,「どうして騙されてしまうのか?」を知っておくのは,大変有意義だと思います。

少し前,「マンガでわかる!高齢者詐欺対策マニュアル」という本が出ました。タイトルのとおり,マンガで事例紹介があり,わかりやすく構成されていながら,騙される心理を,心理学的にも検討してみるといった形で,内容の濃い本になっています。ぜひ一度お読みいただければと思います。

たとえば,この本では,「自分は大丈夫」がいちばん危ない!と指摘しています。人間は,自分にとって都合の悪いことは無視したり,過小評価したりする,「正常性バイアス」がある。さらに,いったん思い込むと,都合のよい情報だけを集めてしまう確証バイアスというものがある。みなさん,基本的に,社会の人はいい人と思いたいという心理もあり,犯罪グループ等は,そこをついてくるというのです。経験豊富な高齢者(特に女性)こそが,犯罪グループ等の考える,(経験したこともないような)新しい手法に引っかかりやすいなどといったことも指摘されています。「今日まで」といった時間的制約で,正常な判断能力を奪おうとするのも,常套的な手段です。人間には,急がされてあせっているときは,問題に役立つ情報を選んで,きちんと判断するのではなく,パッと思い浮かびやすい,「新しい記憶」を取り出して使おうとするという「ヒューリスティック」という傾向があることなども指摘されており,大変参考になります。

決して,騙される方に,なにか落ち度があるわけではありません。悪いのは,だます方です。それでも,これだけ被害がなくならない状況では,知識をもって,常に警戒しておく必要があると思います。著者も,だましは「いつかくる」ではなく「きっとくる」と思って対処すべしとしています。

私は,たびたび,高齢者の消費者被害の講演を行っていますが,少しでも多くの人が,被害を防止するためのお手伝いができればと思います。

「知ろう!考えよう!障害のこと」

平成29年2月3日(金)18:30~20:30,@北九州市立商工貿易会館,「知ろう!考えよう!障害のこと」に参加しました。

内容は,2部構成。第1部は,基調講演として,毎日新聞社論説委員野澤和弘氏による,「障害と障害者差別解消法~障害のある人もない人も暮らしやすい街に~」というお話をいただきました。第2部は,野澤氏がとりまとめる東京大学の自主ゼミ「障害者のリアルに迫る」東大ゼミ生のお2人と野澤氏の対談が行われました。

とても内容の濃い2時間でしたが,私が印象に残ったのは,とにかく,最後の質疑応答でした。質問者から,「結局,障害とはなんだと考えているか。」という質問がありました。自らも精神障害当事者であると語る女子学生の回答は,以下のとおりです。

私が,障害とは何かという問いに答えるとき,いつも,2つの回答を用意している。 1つ目は,障害は「グラデーション」であるということ。健常者と障害者,2つはまるで別のもののように語られる。国の政策上,なにをどこまで,税金を投じて法的に支援するか,線引きが必要ということはわかる。でも,本来,2つははっきり区別できないもののはずだ。人は,生きていれば,それぞれ,生きづらさを感じているもの。生きづらさの大きさに違いがあったり,種類に違いがあったり,ある特定の観点で,生きづらさが大きいと判断されている者を,障害者と呼んでいるに過ぎない。障害というのは,本来,境界のある別のものではなく,連続性のあるグラデーションなのだ。2つ目は,障害は「物語」であるということ。障害を「個性」という形で論じる向きがあるが,私は,そのような呼び方は好きではない。個性というと,なんだか自分の力で変えられるようなニュアンスが感じられる。ネーミングを前向きなものにすればよいという問題ではない。むしろ,障害は,「物語」というべき。ある人は,足が動かないという物語の上を歩んでいる。ある人は,心になんだか生き苦しさを感じているという物語の上を歩んでいる。人それぞれ,障害をもつ人もそうでない人も,それぞれの物語を歩んでいるに過ぎない。

なんとも,考えさせられるコメントでした。みなさま,いかがお感じになられるでしょうか。

法律のブログなので,少し,障害者差別解消法に関しても補足しておきたいと思います。この法律は,障害者に対する差別的取扱を禁止するとともに,行政や事業主に合理的配慮を求めるという特徴があります。ただ,合理的配慮も,事業主に過度な負担を求めるのはいけないということになっています。しかし,これには続きがあり,「障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針」では,さらに,合理的配慮について「義務」とまではいえない場合も,「建設的対話」による解決を図るようつとめるべきという趣旨のことが記載されています。

1つ例を挙げます。学校で,体の悪い障害の方が,電気のスイッチが高すぎて届かない,全部スイッチの場所を下げてくれと要求したとします。しかし,これを全部やろうとすると,莫大なお金がかかってしまいます。学校に過度な負担を課すことになるので,合理的配慮として工事する「義務」までは課されなさそうです。しかし,学校は,その人の言いたいことはわかったということで,教職員や学生等に周知徹底をしたそうです。すると,その人にとって,とても望ましい方向で解決ができるようになりました。なぜなら,その人は,スイッチのことだけで困っていたわけではないからです。その人がスイッチを押せずに困っていれば,気づいた人が助けてあげられるし,図書館で高いところの本が取れなければ,気づいた人が助けてあげられる。工事をするだけであれば,莫大なお金を投じても,スイッチの件以外は解決しなかったでしょう。このように,「建設的対話」が,差別解消法の理念を実現する上で,とても重要になってきます。

野澤氏は,このようなお話をしており,なるほどと思ったところでした。

ここで登場した「障害者のリアルに迫る」東大ゼミ 著・野澤和弘編著「障害者のリアル×東大生のリアル」も購入。生の障害者に触れた東大生の生の声が,それこそ生生しく記されており,大変勉強になりました。おすすめの1冊です。

障害者分野は,私の,おおいに関心をもっている分野です。これからも学び続けていこうと思います。

「ビジネスパーソンのための 契約の教科書」

みなさまは,日々,契約書をつくっていますか。私たちの日常は,日々の買い物(売買契約)をはじめ,住居の賃貸(賃貸借契約),お仕事の関係(雇用契約,委任契約)などなど,契約で満ち溢れています。法律家の立場からは,「契約書は大事です。契約書をつくりましょう。」とアドバイスするのですが,実際,なんでもかんでも契約書をつくってられないという事情もよくわかります。さて,みなさまに使えるアドバイスをするには,どうすればよいかな…と,日々頭を悩ませているわけですが,最近読んだ福井健策「ビジネスパーソンのための 契約の教科書」がわかりやすく参考になったので,少しご紹介させていただきたいと思います。

著書は,結論として,3つの黄金則をかかげています。

①契約書は読むためにある ②「明確」で「網羅的」か ③契約書はコスト。コストパフォーマンスの意識をもつ。

著者自身は,「あまり新鮮味のない」と謙遜されておられますが,なるほどなと思ったところです。

著者の説明は,本を読んでいただければわかるので,以下は,私なりに解釈・理解したところを記しました。

①契約書は,間違っても,押印するためだけにあるのではありません。民法学者川島武宜の名著「日本人の法意識」(岩波新書)は,「我われ日本人は法律や契約を単なる建前と考える傾向が強く,よって必ずしも重視せず,実際にトラブルがあっても話し合いや人間関係で解決に至ると考えがち」であると指摘しています。日本人の考えは,和を尊ぶものとして,尊重されてしかるべきだとは思いますが,だからといって,後からなんとかなる(する)から,契約書を作らないでよいということにはなりません。むしろ,もめごとを回避したいという日本人の法意識からしても,本来,契約書をつくり,内容をよく練り,納得の上で契約をするというのが大事なのではないか。相手方が,親切にも書面をつくってくれたので,なかみも読まずに「変なことは書いてないだろう」と印を押してしまうのはやめましょう。その行為は,せっかく相手が契約内容を詰めようと考え,手間暇かけてつくった契約書を軽んじるような行為とも言うことができ,逆に相手に失礼とも言えるかもしれません。契約書を読むのです。読んで,理解して,理解できないところがあったら誰かに聞いて,そして困るところがあれば直してもらう。あらゆる契約書は,そのためにあるのです。「読まずにこの場で印鑑を押せ。」という空気を感じたら,遠慮せずに,「では,持ち帰って読ませていただきます。」と言いましょう。これがビジネスシーンであれば,ビジネス相手は,その「空気」を利用しているのかもしれませんよ。

②契約書を作るメリットは,ⅰ)後日の証拠,ⅱ)背中を押す・腹をくくる,ⅲ)手続上の必要,ⅳ)意識のズレ・見落し・甘い期待の排除など,さまざまです。契約書には,取引において交渉漏れはないか,プロジェクトを検討するにあたって見落しはないかなどの「チェックリスト」としての機能もあり(ⅳ),契約書を作成する側からは,この機能も見落とせません。「こんなはずじゃなかった」という場面を防止できるにはよい方法です。似たような取引を今後も行うのであれば,今回の取引で不都合が出たところを,今回の取引の契約書に追加していくことで,ノウハウの蓄積にもなります。そうやって,網羅的に検討した内容を明確に書面化すれば,限りなくもめごとを減らせるのではないでしょうか。「明確に」書面化するのが,契約担当者(契約書作成者)の仕事です。「二義を許さない」(他の意味にはとれない)ような文章を目指しましょう。やり方は簡単です。自分ではない他の人にチェックしてもらって,自分の考えているとおりに読んでもらえるかを見ていけばよいのです。

③契約書を作成するデメリットは,手間・時間・費用といった「コスト」です。契約書をつくるかどうかは,さきに述べた契約書作成のメリットが,コストを上回るかどうかで判断すればよいでしょう。契約書作成のメリット>コスト,です。コストの方が大きいなということであれば,今回は見積書も出したし大丈夫だな,覚書程度は書いた方がいいかな,いやFAXで簡単な書面を送れば十分だろう,ええい金額も小さいしメールで十分だ…など,こうした判断や交渉ができて,力を注ぐべきところとそうでないところが区別できるのが,本当の契約巧者ではないでしょうか。

なるほど。私も,契約書作成にコスト意識をもって,日々の経営や業務に勤しんでいきたいと思います。

「檻の中のライオン」

数年前から,憲法に関するニュースが,ホットです。憲法改正要件に関する憲法改正の問題,安全保障関連法制の問題,緊急事態条項の創設に関する問題,特定秘密保護法に関する問題など,目白押しです。

憲法は,司法試験受験においても,非常に難しい受験科目の1つでした。なんだかムズカシイ言葉が並んでていて,その言葉を理解することが一苦労。多少なりとも勉強しても,それが実際の社会でどんな問題が生じているのかを把握するので一苦労…。学生時代,まわりの方も,「憲法は苦手」という人が,多かったものです。

弁護士楾大樹(はんどう・たいき)著「檻の中のライオン」(かもがわ出版)という本があります。ライオン=権力,檻=憲法というたとえを使って,憲法の全体を説明した,異色の憲法入門書です。 イラストが多用されていてわかりやすく,分厚くもなく,それでいて憲法全体の説明を試みており,末尾には,最近の憲法問題についてのわかりやすいガイドもついています。学生時代に読みたかったなあと思ったくらいです。

私は,弁護士会の災害対策委員会で,災害問題にも携わっておりますので,さきに述べた,緊急事態条項については特に関心を寄せています。こちらについては,弁護士永井幸寿著「憲法に緊急事態条項は必要か」(岩波ブックレットNo.945)という本が,非常に薄く,それでいてわかりやすくまとまっていると思いましたので,おすすめします。

私は,地域の方々への法教育にも力を入れたいと考えております。たとえばこれらのような本も活用し,若い世代から,国の根幹にかかわる憲法問題にも興味をもってもらいたい。一選挙権者・一主権者として,地方から日本をよくするお手伝いをできればなあと思っています。18歳から選挙権が与えられ,若い世代が,「そもそも憲法って?政治って?なんのために選挙に行くの?」という悩みを抱えているところではないかと思うところでもあます。これから,地域の方々とお話をして,弁護士の立場からお力になれるところにつき,講演会などいろいろと企画もできたらなと思います。

今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

「運命の逆転」

本日は,映画のレビューを書きます。 みなさんは,クラウス・フォン・ビューロー事件をご存知でしょうか。上級階級のスキャンダルということで世をにぎわせたという冤罪事件です。

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【クラウス・フォン・ビューロー事件】

大富豪クラウス・フォン・ビューロー氏が,突発性低血糖症を患っていた妻サニーに対し,インスリンを過剰投与することにより,妻を植物状態にしたという被疑事実で裁判にかけられた,殺人未遂被告事件。 被告人のカバンからインスリンの注射器が出てきたなどされていたが,当時のインスリンは要冷蔵であったため,カバンに入っていたインスリンに効力があるのかなど,いくつも疑問点があった。 クラウスは有罪とされたが,高名なハーヴァード大学教授アラン・ダーショウィッツを雇って控訴し,弁護団は,警察の捜査を丁寧に検討し,その杜撰さを証明した。 その後,被告人は,無罪となる。 妻サニーは,28年間植物人間のまま,平成20年12月に息を引き取った。

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映画は,植物人間になった妻の登場からはじまります。映画のなかでは,基本的に,クラウス・フォン・ビューロー氏やアラン・ダーショウィッツ氏視点で,裁判が進んでいく様子が描かれますが,時折,植物人間である妻目線(ナレーション?)のセリフがはさまり,錯綜する事実関係,思惑,深まる謎などが表現されます。みどころ満点のサスペンスです。ただし,映画が公開された時点において,当事者がほとんど生存していたこともあって,結末は,少々ぼかされていたようです。

弁護士目線でみても,アラン・ダーショウィッツ氏を中心に,衝突しながらも,多くの弁護士が,事実関係,法律関係,裁判例などを徹底的に洗い出し,取り組もうとする姿,一方で,依頼人を信じてよいものかどうかという葛藤のなかで,弁護活動を進めていく難しさなどが描かれており,考えさせられるところがありました。

この作品でアカデミー賞主演男優賞を受賞した,ジェレミー・アイアンズ氏(クラウス・フォン・ビューロー役)の怪演もみどころです。 ぜひ1度,鑑賞してみてください。

裁判員裁判声掛け事件

平成29年1月6日,新年早々に,裁判員声掛け事件の判決が出ました。新聞記事をみた程度で,詳細を知っているわけでも,事件記録を見たわけでもありませんから,軽々なことは申し上げられませんが,裁判員制度の根幹である,裁判員の保護につき,あらためて考えなければならないですね。

ところで,先日,久しぶりに,三谷幸喜原作・脚本「12人の優しい日本人」を見ました。これは,著名な映画「12人の怒れる男」をベースに,仮に日本に陪審制度があったら…こうなる!という姿を描いたものです。三谷幸喜作品のなかでは,他の作品に比べてあまり知られていないように思われますが,私のおすすめです。「12人の怒れる男」は,ミステリー/シリアスタッチで,陪審員は真実を発見するものだという姿が全面に押し出されているように感じるところですが,対して「12人の優しい日本人」は終始コメディー・タッチであり,しかし結局真面目に議論して結論に到達するということで,非常に国民性やその国の考え方があらわれているのではないか,そのコントラストが面白いと思っています。ぜひ見比べてください。

さまざまな議論のある裁判員制度ですが,裁判員の多くは,「よい経験になった」など,前向きなコメントをしているようです。さきに紹介した「12人の優しい日本人」ではありませんが,日本人は,あまり争いを好まないながらも,いったん引き受けると,引き受けたからには真面目にやる(義理人情の世界?)というような国民性をもっているように思います。本件のような事件は,どちらかといえば例外的な事件なのでしょうし,普段裁判員は自分が危険いさらされることなどはあまりイメージしていないものではないかと思いますが,いったんこのような事件が報道されると,国民が不安に陥り委縮して,もともとの趣旨である「国民の常識を裁判に反映させる」という原点に,大きな支障が生じることになるものと思います。残された課題は大きいと思います。裁判員保護のため制度的な整備は必要ないのか,裁判所の個別の運用で見直すべき点はないのか,私も法曹の一員として,検討を続けたいと思います。

【参考:裁判員法】

第七章 罰則

 (裁判員等に対する請託罪等) 第七十七条 法令の定める手続により行う場合を除き、裁判員又は補充裁判員に対し、その職務に関し、請  託をした者は、二年以下の懲役又は二十万円以下の罰金に処する。 2 法令の定める手続により行う場合を除き、被告事件の審判に影響を及ぼす目的で、裁判員又は補充裁判  員に対し、事実の認定、刑の量定その他の裁判員として行う判断について意見を述べ又はこれについての  情報を提供した者も、前項と同様とする。

 (裁判員等に対する威迫罪) 第七十八条 被告事件に関し、当該被告事件の裁判員若しくは補充裁判員若しくはこれらの職にあった者又  はその親族に対し、面会、文書の送付、電話をかけることその他のいかなる方法をもってするかを問わず  、威迫の行為をした者は、二年以下の懲役又は二十万円以下の罰金に処する。 2 被告事件に関し、当該被告事件の裁判員候補者又はその親族に対し、面会、文書の送付、電話をかける  ことその他のいかなる方法をもってするかを問わず、威迫の行為をした者も、前項と同様とする。

99.9-刑事専門弁護士‐

私は,映画鑑賞が趣味です。TVドラマも見ますが,毎週見るという習慣がなく,自分のペースに合わせて一気に見てしまうタイプなので,だいたい,リアルタイムではなくDVD/BDでみます。というわけで,今更ながら,99.9‐刑事専門弁護士‐を見ました。大ヒットで高視聴率だったらしいですね。

以下のとおり,弁護士としてみて,思うところがたくさんありました。

【見習うべきと思った点】 ・まずはすぐに接見に行く。 ・現場に足を運ぶ。 ・手間暇かかろうが再現をしてみる。 ・「なぜ?」を大事にして,事件の経過を1つ1つ検証していく。

【特に気になった点】 ・第3話 母が危篤の状態において,否認して徹底的に争うか,認めて示談して保釈を認めてもらって早期に身柄を開放してもらうかで悩んでいるが,勾留の執行停止は検討しないのだろうか。松尾浩也監修「条解 刑事訴訟法 第4版」(弘文堂)で確認してみたが,「執行停止が認められる場合」のなかに,「特に親しい近親者の病気」が挙げられている。ぜひ検討してみてはいかがだろうか。

… いろいろ描かれていましたが,本質的な問いとして,深山大翔弁護士(松本潤)と佐田篤弘弁護士(香川照之)の2人のやり取りを通し,「依頼者(被告人)の利益とはなにか」という難しいテーマに挑んでいるのではないかと思いました。端的には,ときに依頼者の表面的な意向に反してでも,1つしか存在し得ない事実(≠真実(ドラマの中でも,真実は人の数だけあるが,事実は1つしかないと述べられていました))と向き合って弁護するのか,(嘘にならない範囲で)依頼者の言うとおりに主張し弁護するのかといった点です。実務的にも,本当に難しい問題です。 総じて,楽しんでみることができ,勉強にもなりました。

ブログの趣旨に反しないよう,法的な問題に関する記事としますが,これからも,映画やドラマのことについても,コメントしていきたいと思います。